「すげー良い映画」希望のかなた kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
すげー良い映画
本当に良い映画でした。本作を形容するときに、「良い」という使われすぎている言葉が何故か一番しっくりくると感じています。ウェルメイドとかではなく、良い。グッドな映画。
自分の店のゴミ出し場に居座っていた外国人のホームレスと殴り合った後、スープを飲ませて、さりげなく「ウチで働かないか?」って、なんて良いんだ!と感動しました。物語の起点になるシーンなので一般的な山場ではないんでしょうが、このシーンにアキ・カウリスマキのあたたかさが凝縮されていると思います。
道徳的に素晴らしいとかそういうことではないんですよ。困っている人に手を差し伸ばすことは、互いに助け合って生き残って来た社会的生物である人類ならば自然とできる行為だと思うので、ヴィクストロムの行いはまぁ自然と言えるでしょう。
しかし、この娑婆世界を生きていると、身を守ったり欲をかいたりするので(それも自然だけど、自分を守る方の自然)、困っている人に手を差し伸べるような、他者への自然な良い行為ってなかなかできないと思います。しかし、ヴィクストロムは当たり前のことのようにシレッと、のっぺりした無表情でそれをやる。良い!人間って良いじゃん!しかも自然!って思ったのです。
この映画は基本的にこのような、本来持っている人間の良さが溢れているので、鑑賞後は守る方の自然さよりも手を差し伸べる方の自然さを大事に生きよう、みたいな所に立ち戻ることができたような気がします。
一方、カーリドが語る生々しい難民の物語はすごくリアル。本当に悲劇で、しょうがないとかとても言えないですよね。情報として見聞きする難民問題では、ひとりの人間の出来事として想像するのは難しいですが、当事者の語りを聞くことで彼の悲しみや怒りを感じることができる。
そして、ヴィクストロムがカーリドに手を伸ばせたのも、こういった生々しい痛みを想像できるからこそなのかもしれません。そこがまた誠実で嘘臭くない。
純粋なハッピーエンドと言えない雰囲気も、なかなかグッときました。やはり妹も強制送還なのか、カーリドは病院で手当てしてもらえるのか…ビターな後味にはカウリスマキの義憤と厳しさを感じます。
映画を観て、世界を変えるのは鑑賞者ひとりひとりの行動にかかっている、と問われているように思いました。
クラッシックなアナログフィルムのぬくもりのある映像も素敵だし、ブルース感強めの音楽も最高。犬も可愛ければカーリドの妹はすごい美人。寿司屋を含めて、間を活かした脱力ギャグもキレがあった。
あたたかいけれど甘やかすようなヌルさは絶無。生のエネルギー大爆発、みたいな派手さはないけど、丁寧で隙のない硬派な名作だったな、との印象です。
カウリスマキ監督は本作を最後に引退する、と宣言しているとのこと。しかし、映画監督とプロレスラーの引退宣言ほど信じられないものはないので、きっとそのうちシレッと、のっぺり無表情で戻って来るでしょう。
という訳で、次回作も期待してます!