「イタコ」鈴木家の嘘 toukyoutonbiさんの映画レビュー(感想・評価)
イタコ
引きこもりの息子が首吊自死。母親は首吊の縄を切ろうとして錯乱し、自分の手首を切って意識不明になってしまう。後に目覚めた母親は息子が自殺した記憶を無くしていた。残された父と娘は、息子が海外で今も生きていると嘘を付く、というのがあらすじ。
内容は、他のレビューにもあるように残された家族が立ち直り、これからの人生へ向かうまでの道筋が描かれている。
前半は重苦しいテーマなので、自殺した兄や倒れた母親を目撃した娘のトラウマや、「なぜ自殺したのか」と問い続ける父親の姿が描写が丁寧で心が痛む。
けど事態を動かすきっかけが、感情爆発・告白というのがありきたりで少しがっかりした。
保険金受け取りのイヴちゃんが誰なのか、住所や連絡先くらいは保険に記録されてると思うので、「イヴが誰なのか」というのが謎になっているのに困惑した。
とはいえ私にとっては内容が少し気持ち悪かった。「もういない人間」の人生を作り、他人の頭の中に望ましい架空の思い出を作る行為は、動機が何であろうと死者が何者であろうと、慰められた人にとっても死んだ本人にとっても褒められたものじゃない。
良くも悪くも死人に口なしという言葉が頭をよぎる。
シリアスがっつりコメディちょっぴりという配分は、あんまりこのしっとりした映画にあってなかった。
中途半端に感じてしまって、個人的に持った気持ち悪さを終盤まで捨てきれなかった。
自殺した息子の妹は、自殺したきっかけが自分にあるんじゃないかという罪悪感や怒りを兄に抱き、現場を発見した時の苦しみもあって、暴露したとも取れるのかもしれないが、死んだ人間を偽装することに悩んではいないだろう。
息子がいない席でハッピーバースデーを歌った母を見た時と、死んだ人間を生きているかのように偽装するのが重なり、始めたのは自分とはいえ馬鹿らしくなったのが、手紙の嘘を打ち明けた一番の理由だと思う。
みんなみんな「なぜ死んだのか」と自殺した息子の実像を拾おうとする。
結局最後まで息子の実体や何を思っていたのかという手がかりは得られない。そこが少なくとも死人への配慮なのかな。
死者を偲ぶというのは徹頭徹尾生きている人間のためのもので自己満足なんだと思った。
「私のせい」という自責を他人へ言うことは「あなたのせいじゃない」という救いを求めているように感じてしまう。
この映画は残された人の、もっと言うならこれからも生きていく人のための映画なので、間の悪い気分のときに見てしまったという気分。また違う時に見れば印象も違ってくると思う。