「時には嘘をついても良い」鈴木家の嘘 とえさんの映画レビュー(感想・評価)
時には嘘をついても良い
家族が自殺したという重いテーマを描ながらも、それをユーモラスに、時にクスッと笑わせながら力強く描いた作品
グイグイと引き込まれながら、彼ら家族の問題を我がことのように感じ、見入ってしまった
父(岸部一徳)と母(原日出子)と長男(加瀬亮)、長女(木竜麻生)の4人家族の鈴木家
ある時、引きこもりの長男が自殺する
それを見た母は気を失い、目覚めた時には長男が自殺したという記憶をなくしていた
そこで、長女は「お兄ちゃんは
アルゼンチンにいる」と母に嘘をついてしまう…
日本は、自殺が多い国として知られている
朝、会社に行きたくない人が電車に飛び込み、通勤電車に遅延が発生するのは日常茶飯事だ
しかし、そうやって、毎日のようにどこかで誰かが自殺している割に、正面から自殺と向き合っている映画はとても少ないように思う
この映画は、そんな自殺を真正面から描いている作品だ
そこにはちゃんと理由があって、これがデビュー作となる野尻監督は、家族が自殺した経験があるという
だからこそ、残された家族の描写には、監督の思いが反映されているんだろうぁ
と感じるところが、随所にあった
その中で思ったのは、もちろん、自殺した本人も、生きていくのに相当辛いことがあったんだろうと思う
けれど、残された家族も、その現実を受け入れるのに辛くて長い時間を費やさなければいけないということ
長女はお母さんのことを思って、とっさに嘘が出てしまったけれど
長女自身も、その時は現実を受け入れきれてなかったのでは
ということ
そして、みんなが息子の自殺に責任を感じつつ、少しずつ現実を受け入れていくようになるのだが、その時間がとても辛いということ
その「辛い現実との向き合い方、受け入れ方」にリアリティがあって
なるほど、「経験者は語る」なんだなぁと思ったし、だからこそ、共感できる作品になっているんだなと思った
それも、ただ辛いだけなく、時に笑ってしまうような場面もあったからこそ、観ているこちらが救われた
そして、そんな笑いと同じぐらい大切なのが会話だった
時には相手を罵ることになってしまっても、会話は大事だと思った
会話は、人を癒す効果があるのだ
だからこそ、部屋に閉じこもって会話をしなかった長男は自殺してしまったのかもしれない
辛いことがあった時、無理にその現実と向き合って受け入れなくて良い
時には、嘘も方便だ
と思えた作品
日本で暮らす私たちにとって、それがある日突然、自分の身に降りかかってくることかもしれない
だからこそ、多くの人に観て欲しいと思う