「時代背景を知っておくとさらに楽しめる」博士と狂人 CBさんの映画レビュー(感想・評価)
時代背景を知っておくとさらに楽しめる
本作は、時代背景を知っておくとさらに楽しめる。英国は、英語辞書(英英辞書)を作ることに、なぜこんなに熱心だったのか。時代背景は、以下の通りだ。
産業革命(1760~1830年)によって、世界の覇権がオランダからイギリスに移った。植民地は、アメリカ大陸、インド大陸をはじめ、世界中に広がり、最盛期には世界の1/4の面積および人口を占めた(本作の中でもセリフあり)。つまり、英語はこの時期に急速に世界に広がった。世界の1/4の人口が英語をカタコトで話し始めたということだ。彼らを植民地として統括する大英帝国として、"正しい英語" を普及することは必須であり、かつプライドがかかっていたということ。
そして、オックスフォード大学の学者に任せていたが、絶望的な敗北、つまりちっとも進まない。誰かいないかと白羽の矢を立てられたのが、スコットランドの仕立て屋の息子で独学による学位ももたない研究家だが多くの言語に堪能なことは有名な主人公マレー。"正しい英語" を確立する、という目標に対し、主人公は、「言葉は少しずつ変遷する。だから、全ての世紀の本を読むことで、すべての単語で、過去からの意味の変化を記録する」 という壮大な策を実行する。学者だけでなく、書店や学校といった、言葉に触れる場から 1,000人のボランティアを募って進めるも、17~18世紀に関する裏付けがほとんどとれずに、作業はまったく進展しない。そんな中、殺人を犯し犯罪病院に入院している元学者マイナーから、大量の引用が届き、作業が進みだす。ふたりは、協力し合って、「英語を大空へ押し上げる」 行為が実を結び始める・・・という話。元学者と元学者が犯した殺人の被害者の妻との関係の変化が並行して語られ、あっという間の124分。
辞書を作る話と言えば、邦画には名作 「舟を編む」 がある。あれを観た人は本作にもすんなり入りやすいように思う。(かといって、事前にみないとわからないということは決してない)「辞書作りなんてことに必死になるのか」 という思いもあるだろうが、逆に考えると、「どんなことでも、全身全霊を込めて取り組む話は、映画にすると人の感動を呼ぶ」 ってことじゃないだろうか。
引用から辞書を作り上げようという映画だけに、心に響くセンテンスが目白押し。「Art:その意味は、『闇を恐れることなく、真実を見つめる』」、「人生は肝要と慈悲の下にある」、「言葉の翼をもてば、世界の果てまでも飛べる、私たちの頭の中は、空よりも広い」 等、次から次への繰り出される。それがまた、元学者と被害者の妻の関係と関連して、心に響くんだ。
ぜひ、観てください。どちらかといえば、"静かな淡々とした映画" の部類に近いかなと思うけれど、観て損しないと思います。
おまけ1
イライザ役の女優(ナタリー・ドーマー)、とても魅力的でした。
おまけ2
ちなみに、英国の時代背景をみている際に、下記のような記述を目にした。英国によって、海底ケーブルがいかにして敷かれたか、だ。
----(ここから引用)-----
イギリスでは鉄道と電信は同時並行的に発達した。電信は、鉄道の情報を送るために必要であった。シンガポール経由でイギリスにもち込まれた、マレーシア原産のガタパーチャというゴムに似た個体の素材は,海底の高い圧力・低温でも,ゴムと違って長年にわたり可塑性があるため,海底通信ケーブルが実現した。イギリスは帝国を形成したからこそ,海底通信ケーブルの敷設が可能になった。1857年に初の電信に成功,イギリスの電信ネットワークは,オランダ,ドイツ,オーストリア,サンクトペテルブルクにまで及び、さらに1866年には,大西洋を横断する海底通信ケーブルが敷設された。平均水深が4000~5000メートルと深く,大型の蒸気船での敷設が必須。つまり,蒸気船の大型化も意味したのである。1865年にはインドとの,1872年には,オーストラリアとの電信ができるようになり、世界は,イギリス製の電信でおおわれた
----(ここまで、「世界史研究最前線」(京都産業大・玉木教授)のホームページから引用)-----
これはこれで、実現までの苦労と達成したときの喜びがしのばれる。いつかきっと、誰かが映画にしてくれるだろうと期待する。面白そうじゃないですか?!
いつも暖かいコメントそして共感ありがとうございます。
知識の増える映画でしたが、70年間のご苦労と多くの人々の力があって
完成したのですね。
この辞書もCBさんの書かれてる海底ケーブルの発展にも、
大英帝国の植民地の多さがあったのですね。
とても為になりました。
海底ケーブルの恩恵を多くの国が受けていたのでしょうね。
ありがとうございます。