劇場公開日 2020年10月16日

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「頭では楽しめるのですが、心が・・・私の場合」博士と狂人 マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0頭では楽しめるのですが、心が・・・私の場合

2020年10月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

辞書を作成するプロジェクトの苦難と栄光がメインテーマ、罪へのゆるしがサブテーマ。
『ことば』に対する絶対的な信頼が、欧米の文化の根底に流れていることを、改めて感じさせる科白が散りばめられていました。日本をふくめ、欧米の政治家の『ことば』の軽さを見聞きするにつれ、こうした『ことば』信仰は劣化していくのか、という思いを抱きながら映画を鑑賞しました。
『ことば』信仰は、東洋的な多神教とは違う中東欧米の一神教と双子の兄弟であるとともに、民主主義や科学という思考方法のベースとして必須のものだと思います。もし『ことば』信仰が薄れている、そしてますます薄れていくとすれば、現代を支えるそうした文化にも大きな変動がもたらされるのでしょうか。
『ことば』の劣化が激しい時代だからこそ、この映画がつくられた意味が大きいのでしょう。

ただこの映画、最中はストーリーの展開にのめり込んで観ることができるのですが、終わってから何かが足りない感じがしてなりませんでした。その理由をよく考えていくと、私の場合、どの登場人物にもあまり感情移入ができていない事に気付きました。
辞書編纂を中心となって進めるマレーの物語と、統合失調症で殺人者のマイナーの物語を絡めながらの2時間。でも、そんなに欲張らずに、マイナーの物語を深く掘り下げて、文字を学ぶイライザの変化と絡めた映画にした方が、伝わるものが大きかったんじゃないかな、と思います。どうでしょうか。

マツドン