「巨大図書館の様々な活動をつぶさに見せることで知的好奇心をくすぐるチャーミングなドキュメンタリー」ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス よねさんの映画レビュー(感想・評価)
巨大図書館の様々な活動をつぶさに見せることで知的好奇心をくすぐるチャーミングなドキュメンタリー
ニューヨーク市からの支援と民間投資で運営されているニューヨーク公共図書館は19世紀に建てられた荘厳な本館と92の分館を持つ巨大組織。6000万点に及ぶコレクションを所有しており、地域住民のみならずあらゆる分野の研究者やアーティスト達からも絶大な信頼を置かれている図書館の活動をつぶさに観察する3時間半。
ベストセラーや名作、点字作品、録音本、DVD、写真、書簡、新聞等莫大な情報が自由に閲覧出来るだけでなく、様々な利用者からの問合せへの対応、様々なテーマで催されるトークセッション、管楽カルテットのコンサート、シニア向けダンス教室、幼児向けの読み聞かせ会、欧州の版画コレクション展、子供向けロボット動作プログラムセミナー、様々なイベントを企画し、地域住民の知的好奇心にありとあらゆる手段でアプローチしている図書館の活動を説明的なナレーションもテロップもなしでただ傍で見つめているだけですが、そこにパンパンに詰まった叡智の断片が眩し過ぎて全く時間を感じないどころか自分も図書館を利用しているかのような錯覚まで感じるほどリアル。そんな活動の合間に映し出されるのが何度も催される図書館職員達の会議、貸出書籍の回収、貧困家庭へのWIFI機器レンタルといった舞台裏の地道な作業。そこから垣間見れるのは図書館運営に必要な予算獲得の難しさ、ベストセラーの蔵書を増やして利用者を増やすのか、レアな研究書を収集して未来のニーズに備えるのかといった試行錯誤に真剣に取り組む職員の姿。直接的には一切語られませんがこの図書館が何と戦い何を獲得してきたか、そしてそれがどれだけ貴重なものであるか、それらを失わないためにどれほどの不断の努力が払われているかが鮮やかに描かれています。映画の冒頭からパンチのあるセリフをかますリチャード・ドーキンス博士、自作にまつわる噂に関する感想と実父のレア映像を楽しげに開陳するエルヴィス・コステロ、お気に入りの書籍に関する感想をじっくりと話すパティ・スミス等のセレブ登場も眩しいです。
個人的には図書館の前で催される死者の日パレードで高らかと奏でられる“Thriller“も印象的でした。TruthとFactの意訳を少々混同していた字幕が気になりましたが、ガルシア=マルケスの『コレラの時代の愛』を取り上げながらマジックリアリズムについて評論が飛び交う読書会で交わされる読者達の様々な感想、聴覚障害者の演劇鑑賞サポートに関する説明会で、手話が単にセリフを伝達するだけでなく手話通訳者が自身の身振りや顔の表情で演者の感情も表現していることを実演してみせるくだり等、観客の知的好奇心も盛大にくすぐってくるチャーミングな作品でした。