「音楽には詳しくないが楽しめた」ベイビー・ドライバー 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
音楽には詳しくないが楽しめた
本作で使用される音楽には1つとして全く詳しくない。
音楽が大きな位置を占める映画は、感心しながら、時には学びながら観ている。
本作の監督であるエドガー・ライトの過去の作品も『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う』ぐらいしか観たことがないし、監督として正直あまり印象にない。
主演のベイビー役であるアンセル・エルゴートは『ダイバージェント』シリーズの主役の兄役で観知っているが、本作では全く違う役柄なので新たな魅力を見出せるかもしれない。
ヒロインのデボラ役のリリー・ジェームズははじめイモージェン・プーツと勘違いしてしまっていた。『高慢と偏見とゾンビ』や『二ツ星の料理人』などの彼女の出演作品を観ているが、そこまで印象に残っていなかったが本作を観たことで、これからは忘れないだろう。
ケヴィン・スペイシーやジェイミー・フォックスなどの錚々たる顔ぶれが犯罪者を演じているのも興味深い。
ただいずれにしろ本作は単純に音楽とそれに合わせたアクションやカー・チェイスを楽しむ映画だろう。
監督のライトはエルゴートと音楽好きで意気投合したことがきっかけで彼を主演に起用したのだという。
冒頭の音楽に合わせて街を歩くシーンなどエルゴートのノリノリの演技に違和感がないのも9歳からバレエを学んでいる経歴も役立っているように思える。
なお筆者は120GBのiPodクラシックをいまだに愛用しているので、本作で重要なアイテムの1つになっているのは少し嬉しい。
ただ生産されなくなって大分経過しているので、YouTubeのKidsReactなどを観ていると最近の子ども達はその存在すら知らないらしい。
10年近く使用しているので、いつバッテリの寿命が来てもおかしくない。交換や修理が気になるところである。
本作ではスバルWRXや三菱ギャランといった日本車が使用され、全体では150台以上の車が使用されているらしい。
監督のライト自身は車マニアではないらしいが、事前調査として元逃走車ドライバーにも話を聞いている。
また運転席に可能なかぎり役者を座らせるために、エルゴートや物語の終盤で彼と壮絶なカー・アクションを展開するジョン・ハムに準備をさせたようだ。
特に運転シーンの多いエルゴートは1ヶ月にわたって練習しているというから、やはりこういう細部をハリウッドは絶対に疎かにしないと感心する。
ジェミー・フォックスの衝撃の死亡シーンやエルゴートがバディ役のハムを逆転して倒すシーンなどご都合主義的な展開がないわけでもないが、全体的には楽しめる作品に仕上がっていると思う。
さらにハリウッド映画で気になるのは犯罪者がなんとなくそのまま市民生活に戻っていく作品が多いことであるが、本作はベイビーも犯罪者であることをしっかりと明示している。
罪を犯しても本意ではなく不可抗力であれば許そうみたいな寛大さを出さなかったのには何か理由があるのだろうか?
裁判の際の情状酌量の証言などがあり、減刑されているだろうが、ベイビーはきっちり刑務所に入っている。
その後刑期を務め上げて出所してデボラとともに第2の人生へと旅立っていくわけだが、個人的に有耶無耶に逃避するよりもすっきりとした終わり方にしていると思う。
本作で流れる音楽に詳しければさらに面白く観られる作品なのかもしれない。
しかし筆者のように全く不案内でもそれなりに楽しむことは可能である。