「徒花に実は生らぬ」散り椿 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
徒花に実は生らぬ
……ええと、割とキツい書き方のレビューになってるので、
本作を気に入られてる方は読み飛ばしていただいて結構です。
『剱岳 点の記』『春を背負って』そして本作を観てこう感じるのだから
いよいよ確信しているのだが、自分は木村大作の監督作品が苦手だ。
どうにも合わない。好きになれない。全く以て不思議なのだが、
美しい映像があって、実力のある役者も揃えているのに、
どうして毎回こんなに情感の薄い映画になってしまうのか?
岡田准一の素早い殺陣や豪華な出演者は見応えがあったし、前2作より物語のテンポは良いと感じたので、
それらよりは集中して見ることができたと思うが、それでも映画内で心に残るシーンがあったかと言われると、
ぐぅっと考え込んでしまう出来だった。イマイチの2.5判定。
...
プロットがステレオタイプであること自体は僕は別に欠点とは思わない。
ステレオタイプなプロットなのに滅法面白い映画というのは山ほどある。
だがそれらの映画というのは登場人物が魅力的に描かれていたり、
感情的な起伏で展開にメリハリを付けたりしているものである。
だが、本作の場合それは当てはまらない。
「亡き妻は、本当は恋敵の方を慕っていたかもしれない、自分は妻を不幸せにしていたのかもしれない」
という主人公の苦悩が本作のドラマにおけるひとつの肝であるわけだが、彼ら夫婦の絆を感じさせる描写が
冒頭以外に殆ど無いため、互いを想う夫婦の繋がりがいまいち伝わらず、主人公の葛藤も感じづらい。
恋敵の件も手紙1枚での説明に留まっているので、真相は予想の範疇を越えず、驚きも感動も薄い。
主人公の旧友たち、すなわち平山道場四天王についても、彼らが竹馬の友だったと感じさせる描写はほぼ皆無。
おかげで藩の陰謀に関わったが為に友情と命運を狂わされていく彼ら全員の悲哀も殆ど感じられない。
池松壮亮演じる藤吾との師弟(or兄弟)関係、黒木華演じる里美の慕情にはわずかに心に響くものがあったが、
まず藤吾については彼の成長が分かり辛く(特に成長前)、終盤の活躍で盛り上がり切らない。
里美については感情を抑え過ぎだと思うが、これに限ってはまあ、
本作の抑えたスタイルを思えば致し方ない気もするので痛し痒しか。
妻への想いと恋敵への友情とで揺れる心、二人の男の間で揺れる心、
友情と保身とで揺れる心、師に出会う前と後で変わる心、
心である。とにかくどの登場人物についても、心の揺れが
しっかり感じられない。だから、感情を揺さぶられない。
一体なぜそれらを映像で描かず、セリフだけで処理してしまうのか?
...
当たり前だが、映像というのは映画における肝心要の部分だ。
優れた映像は観客をその土地・時代・映画の世界に連れて行ってくれるし、
登場人物の心象を表現あるいはさらに増幅してこちらの心を震わせる。
本作の場合、「この時代の風景はこうだったのだろう」と思わせる点で
雄大な山河、緑の溢れる畦道や山寺などの映像は確かに効果を上げているし、
雪降る中での殺陣や土砂降りの山寺を走る主人公などは確かに「画」になる。
しかしだ、
登場人物の心象を表現するという点で、これらの画は十分に機能していたか?
例えば映画のテーマともいえる散り椿が常にロングショットで撮られ、
視覚的にも印象に残らないのは本当に作り手の意図したことなのか?
単に「綺麗な画」ではなく、主人公たちの心を表現・強調させているように
感じさせるような画が、この映画に果たしてどれくらい存在したか?
僕には正直、そういった画は随分と少なく感じた。
...
うーむ、他の2.5判定作品より語気の荒いレビューになってしまった。
けどね、やっぱ綺麗な映像と役者の演技をフレームに収めただけじゃ、心を動かすのには不十分。
今まで観てきた映画の中で記憶に残っている美しいショット・力強いショットを思い出してみると、
それらは総じて周囲の風景が登場人物の心象を表現・強調しているものだと感じる。だが……
はい、ここまでにします、以上です。
<2018.09.29鑑賞>
自分はこの作品、美しきチャンバラ映画として楽しめましたがね。
さておき、多くの共感とコメントありがとうございます。
確かに「ザ·プレデター」や「MEGザ·モンスター」は真っ二つですね(笑)
とはいえ今後共宜しくお願いします。
しかし返信コメまで長いね(笑)