「白い雪が見たかった。いい画なのにね」散り椿 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
白い雪が見たかった。いい画なのにね
黒澤明に師事していた、木村大作(79)が監督・撮影。小泉堯史監督(73)が脚本というコンビで、直木賞作家・葉室麟の同名小説を映画化。
藩の不正を訴え出たために藩を追われた瓜生新兵衛。追放後も連れ添い続け、病に倒れた妻の遺言のため、故郷に戻り、妻との約束を果たす物語。
圧倒的な"雪"、"雨"、"自然光"の使い方。構図のキメ方が、その瞬間瞬間、"シャシン(寫眞)"になっている。素晴らしい。文句のつけようがない。どこにもピントがあっていない風景の中、岡田准一演じる瓜生新兵衛が歩いてくると、望遠で岡田にカッチリ合わせる。
また映画のキホンは・"女優を美しく撮る"ことである。これは映画の大原則。さすが木村大作のカメラは、黒木華の魅力を見事にとらえている。もちろん黒木華は演技で、その撮影に応えている。
そしてなんといっても主演の岡田准一の存在感。岡田准一じゃなかったら、成立しなかったかもしれないと思えるほどだ。まだ37歳なのに若さが影を潜め、老練ささえにじみ出ている。作品は地味だが、もう一回、日本アカデミー賞の主演男優賞でもいい。
もうひとつ、魅力的なのは風変わりな殺陣である。岡田准一の提案という、しゃがみ込んでの斬り合いは新味があって、普通の殺陣だったらオーソドックスな印象に沈みそうな作品にインパクトを与えている。
それにしてもこんなにいい撮影なのに、オープニングから、色相がイエローに転んでいる。よく言えばセピア調?意図的なタイミング(カラー調整)なのかもしれないが、これってどう。
"アレっ?"と思って、公式Webページで予告編を見直してみると、白文字であるべき"散り椿”のタイトルテロップが黄味がかっていることがわかる。やはり雪も"黄色い"のだ。
本作は名匠のこだわりなのか、フィルム撮影(KodakのVISION3フィルム)である。黒木華の姉妹2役が同時に出てくるシーンはデジタル加工していたりもしているわりに、どうしてもフィルムなのだろう。最初からデジタル8Kのパキッとしたコントラスト映像で撮影していたら、最高だったのに。単純に"白い雪が見たい"。
もう一度、フィルム原本からデジタル変換をやりなおしてほしい。
それと出演者・スタッフのテロップが"自筆署名"になっている。ヘタクソな字を見ると情けなくなってくる。木村大作監督の筆致だけが妙に個性的で、これもどうなんだろう。いい作品だけに、ちょっとイラっとしたり。
(2018/9/28/ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ)