ロング,ロングバケーションのレビュー・感想・評価
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1人で置いていくわけにはいかないという思い
途中までは期待しすぎたかなと思ったが、ラストにもっていかれた。
ヘレン・ミレンは品の良い役のイメージが強いが、芯の強いキャラクターが見事。ドナルド・サザーランドのなんとも言えない明るさというか能天気さも良い。
製作は2016年。トランプ旋風が撒き荒れる時期の旅らしい。
旅の途中の景色、海の上の道など本当に雄大で美しい。
ヘミングウェイの家がなんと世俗的にみえることか。
ヘミングウェイの家にたどり着くことが目的だったのではなかったのだ。
2人で時間を過ごすことが目的だったのだ。
何が正解だったのかなんて分からない。
エラがいなくなったらジョンは彼女の存在もあっという間に忘れてしまうかもしれない。もしかしたらジョンの方が先に死ぬかもしれない。
どうなるかわからないからこそ、いま一番だと思える選択をしていくしかないのだ。
老夫婦の最後のヴァカンス
老人のロードムービーは、人生の終わりにその山頂やゴールから、
彼らが人生を振り返る景色を、一緒に覗き見られるのが、醍醐味だと思う。
熱々の老夫婦は、子供に、施設と病院に、別々に入れられる直前、
古ぼけたキャンピングカーで最後のヴァカンスへ出かける。
元英語教師の夫は認知症。
英文学への情熱を失わず、手当たり次第に人を捕まえては、ヘミングウェイの講釈を語る。
強盗に、スペルミスの指摘と、夜間学校を勧める辺り、往年の職業柄が滲み出る。
長々とした講釈を聴いてあげている不良や、老人と海で卒論を書いた給仕など、
老人に優しい町は見ていて気持ちが和む。
妻は、認知症の夫に絶えずユーモラスに語りかけながら、
彼の好きな行き先や、洋服や身支度を、熟練の手腕で整えていく。
強盗を銃で追い払い、昔の恋人に会わせに行く機動力と情熱。
時折、病の靄が晴れて戻って来る夫に歓喜して、絶望してを繰り返しながら、
思う存分、愛する夫と過去の思い出話に浸っている。
二人の会話のテンポも良く、
ロードムービーの軽快さと、移り変わる景色と音楽で、飽きずに観られる。
二人は、古い記憶に引きずられて、幾つかの人生の決着を付ける。
夫は実は妻の最初の恋人に50年間も嫉妬していて、
認知症になってもそれが許せずに、
むしろそれが前面に出て来てしまう。
彼はどれほど妻が好きなのか。
嫉妬の挙句、夫が意固地にトランクスを履きたくない理由が判明。
そういう馬鹿馬鹿しい因果関係が、人生にはある。
人生とは、そういう馬鹿馬鹿しい因果関係の積み重ねなのかもしれない。
もう一つ。
妻は夫の思いがけない浮気の告白にブチ切れて、夫を即座に最寄りの施設に捨てて、ウィスキーを呷って当時幼い娘にブチ切れて、ブチ切れたまま施設に夫を取り戻しに来て、許す。
「妻は、時々、手負いの水牛になるんです。」
夫の的確な表現に、二人の歴史を感じる。
施設の職員の忍耐も素晴らしい。さすがプロ。
母親の口汚い電話のあとにも、同じく老い先短い隣人の心を穏やかに保つ娘。さすが大人。
最後の決断は、理想主義的過ぎて、寂しさが残るが、
50年来の恋人同士で最後まで熱愛の二人らしい思考回路とも言える。
全編を通して、明るい老夫婦が、一緒に長く暮らす尊さを見せてくれる。
「イキたくないの? 」「これでいい」
映画「ロング,ロングバケーション」(パオロ・ビルツィ監督)から。
途中から涙が止まらなくなってしまった。
アルツハイマーが進行中の夫と、末期がんに侵されている妻が、
夫婦でしかわからない距離感で、旅をする。
いつ壊れてもおかしくない愛車のキャンピングカーで旅することで
2人は一緒に過ごしてきた時間に向き合うことができた。
それは、すべてが順調ではなかったかもしれないが、
2人にしかわからない感情が詰め込まれていて、グッときた。
印象的なシーンは、最後にもう一度、結ばれる場面。
現実的には、ちょっとあり得ないかも・・と思いながらも、
なぜか、この会話が素敵だった。
お漏らししてしまった夫がパンツを取り替える時、なぜか
勃起した性器を妻の前に露わにする。「やぁ・・」と言いながら。
「勇ましいわね。でも臨戦状態は解いて」と驚きながら答える妻。
「ジョン、何してるの? 」と聞き返すと、
「試そう・・ちょっとでいいから」と呟きながら、その行為に及ぶ。
そして「ちょっとだけ・・入ってる・・」「そうね、奥まで入ってる」
「じっとして」「イキたくないの? 」「これでいい」
「ジョン、心の底から愛してるわ」「二度と離れないでくれ」「分かった」
「約束だ」「約束する」と2人の会話は静かに続いて、翌朝のシーンへ。
衝撃的なカットかもしれないが、老夫婦ならではの会話、
長年連れ添った相手に対する思いやりが、表現されていた気がする。
子育てがひと段落した夫婦、必見の映画かな。
この作品、夫婦一緒に観るより、別々に観ることをお勧めする。
年寄りの年寄りによる年寄りのための映画
年寄りの年寄りによる年寄りのための映画。
1960年代に美男だったドナルド サザランドと、1980年代までは美人だったヘレンミレンが主役。
ストーリーは
2017年 米国、マサチューセッツ
ジョン スペンサー(ドナルド サザーランド)は、かつては高校で文学を教えていた。妻のエラ(ヘレン ミレン)との間には、二人の子供が居る。すでに子供達は成長して家を出て家庭を持っている。ジョンは、70代になりアルツハイマー病と罹患して、記憶力は衰えるばかりで、妻を認識できないこともある。ジョンを介護してきたエラは、癌の末期を迎えており、強力な鎮痛剤なしでは生活できない状態に陥っている。
彼らのガレージには,もう何十年も使っていなかったキャンピングカーがある。それはレジャーシーカー(お楽しみ号)という愛称をもっていて、子供達が小さかった時には、休暇に家族でキャンプに出かけるために活躍した車だった。
エラは誕生日に、このレジャーシーカーをジョンに運転させて、二人して家を出る。向かう先は、フロリダ、アーネスト ヘミングウェイのキーハウスだ。ジョンにとって、ヘミングウェイはヒーローだ。ヘミングウェイのことを話し出したら、聴き手が居ようが居まいが、相手が閉口しようがしまいが、一向にかまわずに講義を始めてしまう。二人とも、年を取り、深刻な病気をもっているが、病人扱いする家族や友人たちにはうんざりだ。二人して、フロリダまで行ってみたい。何日かかろうが構わない。旅を楽しもう。
父親の誕生日にケーキをもって訪ねて来た息子は、両親が何も告げずに無謀な冒険旅行に発ってしまったことで心配で、気も狂わんばかりだ。姉も飛んできて、携帯電話を持つ習慣のない両親を責めて見たり、何もできない自分達に腹を立てたりして大騒ぎだ。
一方のジョンとエラは、夏休みに入ったばかりの子供のように、嬉しそうにフロリダに向かう。ジョンは危なっかしい運転で、途中センターラインを無視して運転して警官に止められたり、どこにいるのかわからなくなって、困惑したりもするが、何とか運転してキャラバンを続ける。
記憶力がなく、思い違いも多いジョンは、ガソリンスタンドでエラを置いて車を発車させていってしまったり、車の外に出て行方不明になったりを繰り返すが、何とかフロリダに到着する。しかしへキングウェイの家で、エラは過労で倒れる。救急車で運ばれた先の病院で、ドクターたちはエラが癌の末期でもう時間がないことを告げるが、ジョンには何も理解できない。ジョンは病室でエラを見つけると、嬉しそうに彼女を起こしてキャンピングカーに連れて帰る。その夜、エラはジョンにたっぷり睡眠剤を飲ませ、エラも同じものを飲み,閉め切った車に排気ガス管をひいてエンジンをオンする。
というお話。
美しく年をとった昔の美男次女が、仲の良い夫婦を演じていて、彼らが若かったころを知っている人にとっては嬉しい映画だ。
82歳のカナダ人、ドナルド サザーランドは、本当に背が高くて美男で良い役者だった。60年代ベトナム戦争に反対する活動家でもあって、ジェーン フォンダと共に逮捕覚悟で戦闘的なデモに参加するなどして、発言も勇敢だった。すっかり年をとって、アルツハイマー病の老人を上手に演じている。
72歳のヘレン ミレンの全く化粧をせずに、ウィグも被らずにいるときの、皺だらけの素顔がとても美しい。文字通りの体当たりの演技だ。そしてこの人の発音する英語が本当のクイーンイングリッシュで美しい。
映画は、泣き笑いの場面の多いロードムービイだが、本質的には悲しい悲しい物語だ。映画でこの仲の良い夫婦は安楽死を選んで、満足して死んでいく。やっぱり安楽死でしか老人は幸せに死ねないのか、という結論にはうなだれるしかない。死んでそれを惜しんでくれる人々が居るあいだは幸いだ。アルツハイマー病の終末期や、鎮痛剤も効かない癌の終末期の死は、誰にとっても苦痛なだけだ。現実社会では死にそびれた老人たち、年を取って体が動けなくなったら死にたいと思っていたけれどタイミングを外して自分から安楽死しそびれた老人たちで溢れている。映画では、安楽死を推薦しているようにも取れるが、現実社会でもいずれ、条件つきで老人の安楽死を認めざるを得なくなるだろう。健康保険が老人を支えきれなくなるからだ。
私はこの映画に出てくるジョンのような脳が委縮したアルツハイマー病患者に食事、排泄、睡眠をとらせて肺炎など二次感染を予防し事故が起こらないように管理し、エラのような末期がん患者にモルヒネを投与して終末医療を提供することを職業としている。毎日毎日、ジョンとエラを、自分の職場でみている。
脳が委縮した患者は、家族のことも、自分の名前もわからなくなる、この疾病患者を介護する家族の苦労は並大抵のものではない。多くの女性患者はドアを開ければ徘徊して行方不明になったり、猜疑心や嫉妬心から自分の持ち物を人に取られたと思って家族でも盗人扱いしたり、中傷したりする。男性患者の多くは思い通りにいかないことで腹を立て暴力的になる。まともに思考することができないから、感情のまま行動して人を傷つける。大小便を垂れ流しながら、頑固に自分の主張を言い張ったり、無理な命令を人にしたりする。次に何をし出すか予想できない。多くの患者は、アルツハイマー病だけでなく、老人性認識障害も、てんかんも、躁うつ病も精神分裂症も、パーキンソン氏病も同時に発病していることが多い。年を取ればほとんどの人が、このうちの病気のひとつに罹患して死んでいくことになる。
年寄りは思い違いをしたり、奇妙な行動をして人々を笑わせるが、これは老人が笑わせようとしている訳では決してない。この映画の紹介で、「ロード トリップ コメデイ―」と紹介している新聞があって、衝撃を受けた。ジョンとエラの会話は、滑稽で、時として大笑いするが、これは現実であって笑い話ではないのだ。
じきに日本では人口の3分の1が65歳以上になる。2018年現在、80歳以上の人口が1000万人、100歳以上の人口が7万人いて、日本は完全なる老人国家になった。そのような国は世界でまだ他にない。先進国で65歳以上の人口割合は、ドイツで21%、英国18.1%、米国14.6%、韓国13%、中国9.7%。日本にくらべて、まだまだ余裕がある。
この映画は老人人口がまだ14%のアメリカの話だ。3人に1人が老人の日本の映画ではない。日本だったら、もっとずっと深刻な話なのだ。アルツハイマー病は、癌の死亡率を抑えることに成功した現在の医療にとって、完治することも、予防することも出来ないでいる最大最悪の疾患だ。
国と政府はそういった疾病対策のために税金を使わなければならない。3人に1人が老人の国、何の資源もない国、人口が速いスピードで減少するばかりの国。それが日本だ。2018年の日本総人口は1.26憶人。2008年に比べてすでに160万人の人口が減少している。若い夫婦は子育ての環境が整っていない政府のもとで子供を産まない。このような、老人ばかりの国に軍事力が必要だろうか。
国の力とは人の力のことだ。国力とは国民の生産力を言う。国に生産力を持った人が居ない国など、近隣諸国に侵略されるほどの魅力もない。侵略を怖れて軍事強化するなど、あきれる。一体誰が銃を取るのか。誰に向けて銃を取るのか。戦争などやっている場合ではないはずだ。
年寄りの年寄りによる、年寄りのための映画を、私は政府が今何をすべきなのかを問いただすための、政府への警告として捉えて観たい。
ヘミングウェイ
アルツハイマーの夫と
末期癌?の妻とのロードムービー
口紅クンクンして
妻を思い出すシーン
可愛かった‼︎
悲しいラストでしたが
ハッピーエンドなのだと
思います。
サントラも良かった‼︎
自由の意味を履き違えた傍迷惑な老夫婦のロードムービー
ドナルド・サザーランド演じる夫はアルツハイマー型認知症を発症しているし、ヘレン・ミレン演じる妻は全身に癌が生き渡ったような状態。夫婦が離れ離れになってしまう前に、二人だけの最後の旅に出る。それは悪いことではない。思い出の場所、そしてヘミングウェイの家を目指してRV車を走らせる旅に、夫婦が連れ添った長い月日が重なっていくというのは、まぁありがちではあるものの、ドラマティックで見ごたえも感じられるところである。
しかし、話が進めば進むほどになんだか雲行きが怪しくなってくる。というか、そもそも初めから様子はおかしかったのだ。ヘレン・ミレン演じる女性は、口が達者で少々気が強そうだが、小股が切れ上がって威勢がいい女性だと好意的に解釈しようと思えば出来る範疇にいたのが、物語が進むごとにその範疇をはみ出してしまう。もう途中からはこの夫婦がただの傍迷惑な老人にしか見えなくなってくるから悲しい。いくらアルツハイマーでも、いくら末期癌だとしても、だからって好き勝手が許されるわけではないし、それを「自由」だなんて思わないでいただきたい。
いくらサザーランドとミレンの魅力と演技力をもってしても、この夫婦のことを(特に妻エラのことを)好意的に見ることはできなくなっていた。行く先々で繰り返すとても身勝手な行動の数々。老人ホームや病院や、そこで働く善良な人々に対する態度。彼らに無理強いをして従わせたり、思い通りでないと暴言を吐いたりとあまりに感情的かつ自分勝手。そもそも実子達に対しても迷惑しかかけていないし、最後の最後のあの行為も、いやいや周りからしたら本当に迷惑なだけである。
アルツハイマーで、しかし時折真面な夫が一瞬だけ戻ってくるときの喜びと悲哀であったりと、ドラマ性は十分にあるけれども、それを上回る不快感。彼ら夫婦の気持ちが分からないではないが、せめて自分が逝くときは、なるべく人様に迷惑をかけずに逝きたいものだと心底思った次第だった。
この物語を見て、彼らの行動を、美しいだの、ロマンティックだの、ましてや愛だのと言えるほど、私は浅はかではないつもりだ。
東海岸のロードムービーでもある
元大学教授だが現在はアルツハイマーの夫と末期がんの妻が、最後の旅行でボストンからヘミングウェイの家があるキーウェストまで1号線をキャンピングカーで南下。大学教員になった長女との電話では久々に正気に戻って娘を讃えたり、時々は昔の知的な夫になるものの、おもらしするし何言っても覚えてないし世話が焼けるばっかりの夫だが、持って来たスライドを上映して、これまでの結婚生活の思い出から、少しでも記憶を呼び起こそうとする。でも教え子の女性に会った時にはアルツハイマーの気配を見せずかつての皆から尊敬される教授っぷりに、それはそれで気が悪かったりして、必ずしも夫に盲目的に添い遂げていたとは言えないみたい。老夫婦ならではの珍道中で、しまいには記憶が混濁した夫が不倫を白状してしまう。
しかしこのドライブは単なる現実逃避でも思い出旅行でもなく、知的な二人の最期の結論だった。
知的な人ほど認知症になった時のギャップが激しく、老いの悲しさを考えさせられる。
この夫婦の長女と長男は少ししか出てこないが、家族関係の複雑さを表してもいる。
”旅の終わり”に見せる、2大名優の演技の掛け合い。
これは今月の掘り出し物。名優ヘレン・ミレン(72歳)とドナルド・サザーランド(82歳)の2大名優が、人生の残り少ない70代の夫婦役を演じる。
妻のエラは、全身に転移した末期がんを抱え、夫ジョンは、進行性のアルツハイマーで時折、自分が分からなくなる。
これ以上の無意味な治療を望まないエラは、自分の死後、ひとり残される認知症の夫が施設に入れられることを案じている。そんな2人がキャンピングカー、"レジャー・シーカー"(←これが原題)に乘って旅に出る。なんと夫の運転で(!)
半世紀もの結婚生活を過ごした2人の絶妙な間合い。サザーランドの認知症の演技と、それを受け流す妻エラとしてのミレンの掛け合い。2人のガチンコ勝負が展開される。
原作はマイケル・ザドゥリアンの小説で、邦題は「旅の終わりに」。こちらのほうが良いタイトルだ。「ロング,ロングバケーション」って、大瀧詠一か!!
原作設定と大きく変えているのは、旅の目的地と夫の職業設定。原作の目的地は、家族の想い出の"ディズニーランド"だが、映画ではジョンは元大学教授で、敬愛するヘミングウェイの家があるフロリダの"キーウェスト"を目指す。
脚本のこの変更点のおかげで、夫の教養の高さと認知症のギャップがしっかりと出ているし、効果的なエピソードとエンディングを作り出すことに成功している。
監督は「人間の値打ち」(2016)や「歓びのトスカーナ」(2017)など、イタリア国内でヒットも記録する名作を数々つくる、名匠パオロ・ビルツィ。
(2018/1/26 /TOHOシネマズ日本橋 /シネスコ/字幕:栗原とみ子)
ロングロングジャーニー!!
前情報なしで仲良し夫婦の話として観始めました。周りの人は二人を老人だと決め付け過ぎなんじゃないかと思いましたが、車で遠出ができる状態では全くないと徐々に分かっていき、それが面白くもあり悲しかったです。大昔の浮気の告白は笑って許す度量があると、もっと良かったです。二人がお互いを思いやる姿や言葉がとても美しく、とても演技には見えず素晴らしかったです。
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