「☆☆☆☆ ボクシング同様に競馬を愛した寺山修司だけに。冒頭には、前...」あゝ、荒野 後篇 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
☆☆☆☆ ボクシング同様に競馬を愛した寺山修司だけに。冒頭には、前...
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ボクシング同様に競馬を愛した寺山修司だけに。冒頭には、前編でのオルフェーブル(勿論、寺山修司本人は知らない。しかし、生きていれば必ず寺山は愛したであろう。)に代わり、血統の話から始まる。
競馬に於いて血統の重要性は高い。
どうあがなっても、地味な血統馬が良血馬を凌駕する事はなかなか無い。
言ってみれば、競馬は血統が全てを決める…と、言っても良い。
だが!…。
そんな競馬の世界に於いて、時折とんでもない奇跡が起こる。
それが今では伝説となったオグリキャップで有り。僅か数百万円の取引から、10億円強(確か…)を稼ぎ出したテイエムオペラオーでも有る。
登場人物の1人で有る芳子は。過去を清算したいが為に、辛い時期に自分が身に付けていたモノを海に捨てる。
しかし無情にもソレは、また元通りに浜にうちあげられてしまう。
まるで血統とゆう運命に逆らう事を嘲笑うかの様に…。
この作品に登場する主な人物達は。全員が【親子】とゆう運命の糸に操られ、苦悩する。
未だに原作は未読では有りますが。寺山修司が原作を書いたのは60年安保闘争の真っ只中。おそらくそんな学生運動に奔走した学生達と共に、社会の底辺に生きる人達を、寺山本人が慈しむかの様に書かれていたのではないだろうか?と思う。
何しろ、登場人物達の殆どがどん底に近い生活をし、生きる人達なのだから。
理想を追い求めながらも、志し半ばで夢を打ち砕かれた、数多くの学生達に対するレクイエムの様な心境で…。
時代設定を、現在から5年後に設定されている為に。当然の様に、当時の社会情勢と5年後の近未来とでは内容的にも変わって来る。
それだけに、当時の学生運動の〝熱さ″は画面からは、残念ながら伝わっては来ない。
この辺りの描写は!どこか中途半端に感じてしまうので、批判されても致し方ないのかなあ〜…とは思う。
そんな登場人物達の多くは、社会の変化になかなか順応出来ない。ほぼ全員がただ流れに身を任せて生活している。
そんな中に有って、たった1人だけバリカン健二は自らの殻を破る。
遂に覚醒するバリカン健二。
そして運命のゴングは鳴る!
縦軸にはボクシングを通じての男の友情を。
横軸には理想の夢を打ち砕かれた学生達の想いを。
更には社会の底辺に生きる人々に優しい目線を向けた寺山修司の想い。
そんな中にあって寺山修司は。ひっそりと、男同士の同性愛にも優しい目線を向けていたのではなかろうか?
決して寺山修司自身が同性愛者だった訳では無く。当時の社会通念が、そんな描写を許さなかった為に。マイノリティーの人達に対する優しさを込め、ひっそりと…。
(2017年11月3日 イオンシネマ幕張新都心/スクリーン10)