「ジャングルに取り憑かれた男の数奇な人生。バカみたいなタイトルからは想像もつかないシリアスさ…。」ロスト・シティZ 失われた黄金都市 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
ジャングルに取り憑かれた男の数奇な人生。バカみたいなタイトルからは想像もつかないシリアスさ…。
南米にあるといわれる古代文明都市「Z」を探すことに人生を捧げた実在の探検家、パーシー・フォーセットの人生を描いたアドベンチャー・ムービー。
パーシーの腹心の部下、ヘンリー・コスティンを演じるのは『ハリー・ポッター』シリーズや『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソン。
パーシーの息子、ジャックを演じるのは『白鯨との闘い』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のトム・ホランド。
製作総指揮を務めるのは『セブン』『オーシャンズ』シリーズで知られる、名優にして名プロデューサーのブラッド・ピット。
世界には知られざる変人がたくさんいるものでして、本作の主人公パーシー・フォーセットもその1人。
とにかくジャングルが好きすぎる激レアさん。
『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』という、いかにもハリウッドらしい大味なアクション・アドベンチャー映画っぽいタイトルからは想像もできないほど、全体的にシリアスな物語が続く。
ジャングルに眠る古代文明を解き明かしたいという欲求、冒険で得られる興奮への執着、それに振り回される家族、第一次世界大戦への従軍…。
常軌を逸した情熱を持った男の辿る運命を、比較的静かなタッチで淡々と描いていくという作風が、『インディ・ジョーンズ』のような娯楽冒険映画とは一線を画す。
アクションよりも人間ドラマに重きを置いている作品ではあるが、南米の奥地で繰り広げられるパートはなかなかに迫力があり見所満載。
人喰い族との邂逅やピラニアの襲撃など、お約束描写がきっちりと描かれていてワクワクする。
そして作中に登場する土人(つちのひと)が、ちゃんと現地の部族に見える!
この生々しいリアリティが作品の格調を高めております。
20世紀初頭のロンドン、上流階級の人間は南米の奥地に暮らす人々を"蛮人"と見下す。
"蛮人"は文明など持っているはずもない、野蛮で凶暴な人々であると決めつけている文明社会に暮らす人間。そんな彼らがせっせと勤しんでいるのは、1000万人以上の人間が命を落とした大戦争である。
無駄な争いは起こさず、静かに自分たちのテリトリーで暮らす土人と、他者の領地を侵し、現地人を奴隷にし、最悪な戦争に興じる文明人。
果たしてどちらが"蛮人"であるのか、この映画は問いかける。そしてその答えを知りながらも軍人としての責務を果たすために第一次世界大戦最大の戦場となったソンム河に赴くパーシーの姿に、文明に生きる人間の悲しみと、だからこそ浮かび上がる尊さを読み解くことが出来る。
パーシー・フォーセットという男、日本人としてはどうしても水木しげる大先生とその姿がダブる。
水木先生はパプア・ニューギニアでの従軍中、現地の人々の優しさに触れ地獄の戦場を生き残った。
本国への引き揚げが決まった時、自分は現地に残りたいと申し出るほどに、先生は土人との交流に心を動かされた。
親に顔を見せてやれと説得され、結局は日本へ帰ることになるのだが、現地の少年トペトロとの交遊関係はその後50年に渡り続くことになる。
水木先生はその後漫画家としての活動と並行して、世界中の部族の生活を調査し記録するという冒険家としての顔も持ち合わせていたこともこのパーシー・フォーセットという人物とダブる。もしもこの2人が出会って酒でも飲み交わしたなら、話が盛り上がったことだろう。
※「土人」と書くと差別用語のように受け取られるかも知れないが、水木しげる先生は土と共に生きる人々のことを、尊敬も込めて「土人(つちのひと)」と呼んでいた。したがってこのレビューでも「土人」と表記させていただいております🙇
以上の理由から、水木しげる信者の自分にとってパーシーという人物にとても好感が持てたのだが、冷静になって考えるとこの人かなりの狂人。
戦争でこれから死ぬかもしれない、という時でさえ、家族よりもジャングルのことを考えているし、一名を取り留めてから流す涙は、家族と再会できたことへの嬉し涙ではなく、もう2度と冒険へ出かけることが出来ないことへの悔し涙。
もうこれは完全にジャンキー。アドレナリン・ジャンキーとしか言いようがなく、到底まともな人間とは思えない。
酒によって身を崩した父親と、ある意味では同じ轍を踏んでしまっている。
家族を顧みずに自分の夢を追いかけ、結果として息子まで冒険へと巻き込んでしまっているのだから、見様によっては最悪のろくでなし。
奥さんに肩入れしながら観ている人にとっては、パーシーの人物像は到底受け入れがたいのだろうと察する。
141分という長尺だが、全く退屈しなかった。
個人的にはかなり楽しめたのだが、後半になるに従ってどんどん尻すぼみになっていくという感じは否めない。
王立地理学会の集会で「Z」は存在する!!ドンッ!と海賊王ばりの演説をぶち上げるシーン。
ここから2回目の冒険へと旅立つ展開は最高に上がる!
パーシー、コスティン、アーサーという黄金トリオのファミリー感がめちゃくちゃ心地よく、この3人の冒険をもっと観ていたいと思えたし、どうしようもないデブのマレーの憎たらしさも、ドラマ的な盛り上がりを演出してくれた。
マレーの理不尽な謝罪要求に対し、こんなクズを仲間に入れてすまんかった!と部下達に頭を下げるパーシー。こんな上司ならそりゃ地獄の果てまでもついていきますわ。
この冒険での挫折から、第一次世界大戦という地獄へと雪崩れ込む展開も良き。
楽しかった青春にも終わりが訪れるということを、うまく物語に落とし込んでいる。
個人的にはもうこの戦争と、その後の隠居生活が描かれたところで映画は終わっても良かったように思う。
息子のジャックと2人で旅立ったところでエンド・クレジット。その後の顛末は字幕でサラッと流すみたいな。
ちょっとこの3回目の冒険が盛り上がらなかった。
また同じような描写が続くんかい、と思ってダレてしまった。
大体、最後で実はパーシー生きてますみたいな匂わせをやっていたけど、それならそれでクズすぎる。早く帰ってこいよ。
史実を元にしている為、バッド・エンドなのは仕方ないとは思うのだが、やはり冒険映画なのでもう少しコミカルで楽しい感じの作品に仕上げてもよかったのではないか?と思わないでもない。
とはいえ、この全体的にクールな感じは嫌いではないし、ハラハラワクワクしながら観ることが出来たのでけっこう満足👍
ちなみに、パーシーはこの映画中3度冒険の旅に出かけたことになっているが、実際には8回もジャングルに冒険へ出かけている。これはもう現地に住んだ方が良かったんじゃないか?