「「伝わり易く」は会話のルール」悪と仮面のルール 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
「伝わり易く」は会話のルール
抽象的な映画やナレーション、あるいはそもそもが
誇張表現であるアニメーション等々ならある程度は
気にならないとは思うが、文章的な表現をそのまま
現実の会話で使用する人というのは、まずいない。
例えば「じゃ、明日の夕方には報告書を仕上げといてね」を
「然らば完成させるのだ、報告書を。明日、夕刻までにな……」
なんて具合に言う人はいないだろう。いたとしたら僕は、
苦笑いを浮かべてその人からそっと一歩距離を取る。
映画においても自然な会話表現は大切だと個人的には思う。
文章的な表現を使うにしても、ここぞという時
くらいに制限しないと、観る側は白けてしまう。
なぜこんな話をするかって?
この映画の台詞が始めから終わりまでそんな調子で、
悪い意味での鳥肌立ちっぱなしだったせいだ。
覚え書きだが一例を書き出してみようか。
「お前は私の手でひとつの『邪(じゃ)』となる」
「お前はあの女を損ないたいのだろう?」
「ならばどうして生きる? 感情の空白を
感じてまでして、どうして生きる?」
「全部が消えればいい! 私の憂鬱の中で、
全部が消えればいいんだ! ハッハッハッハッ!」
……まあ、なんだ、こんな感じ。
だいたい『邪(じゃ)』なんて言葉は発音だけ聞いても
意味がピンと来ないので普通使うはずもないのに、
本作では誰も彼もがじゃじゃじゃと連呼しまくる。
『悪』か『邪悪』でええやん。
『損なう』も『汚す』とかでええやん。
原作未読なのでこの映画の台詞が原作をどこまで
踏襲してるのかは知らないが、 いずれにせよ生身
の人間が吐くと違和感だらけの台詞のつるべ打ち。
中二病をこじらせたまま成長した高校生どうしの
禅問答みたいなやりとりが延々と続く。
...
会話シーンは最たるものだが、他にも本作では
キャラ描写や細かな演出に疑問を感じる点が多い。
もっとも『?』なのは主人公と対立するあの黒幕。
主人公との因縁が全く描かれないのも妙だし、
あの目的を果たす為ならなぜ国外ではなく
国内の小規模な○○を利用したのか?とか、
脅しも中途半端だとか言動も意味不明だとか、
稀に見る迷キャラに仕上がってしまっている。
ヒロインも、いくら心の清い女性だとしても、
あまりに偶像視され過ぎじゃないかしら。
柄本明の役も、主人公の行動を監視する厄介なキャラ
と思わせつつ実は本筋には全く絡んでこないし。
あと主人公。
知らない人間から着信が掛かってきただけで
大慌てで周囲の人や建物を見回し始めたり
(着信だけでなぜ「誰かが近くで見ている」と気付く?)、
初めて刑事と出会うシーンで、まだ刑事が来た理由も
言わない段階から物凄く不安そうな顔をしたり――。
ヒロインを影から守る立場を目指すには
感情隠すのヘタ過ぎない?とも思うのだが、
そもそも演出する側が各シーンでの感情の流れを
ちゃんと整理できていないんじゃないかと思える。
映像面でも、寄りの画がやたらに多かったり、
人物の顔の一部をわざとフレームアウトさせる等の
意図不明のカットがあったり、拡がりの無い画ばかりで
全体的に映画の雰囲気が窮屈に感じた。
...
映像も台詞も展開もキャラも非常に……
なのだが、それでも長所を探すなら……
玉木宏、吉沢亮、新木優子といった美男美女が
主人公なのはまだ救いだし、光石研や柄本明に
至っては味のある表情だけでなく、勿体ぶった
台詞の数々も違和感無くモノにしていて流石。
愛する人の為に顔も変え、姿も消し、報われる事も望まず、
ただただ自らの手を汚し続ける主人公、という設定も良いし、
ヒロインとのあの最後のやりとりも悪くはない
(だがもっと感動的になったはずのこの場面はダラダラ冗長)。
正直、中盤に入る前には本作に辟易していたのだが、
それでも上記の点のおかげで最後まで観る事は出来た。
まあそれでも……
個人的には新年早々2018年ワースト級作品な気がする。
役者さんのファン以外にはちょっと勧められないかな。
うーむ、かなりイマイチの 2.0判定で。1.5でも良い位かも。
<2018.01.13鑑賞>
にまたらさん、
浮遊きびなごと申します。
ご指摘ありがとうございました。
一応ネタバレ無しで書いたつもりでしたが、
どの辺りが不味いと感じたか教えていただけると助かります。
念の為にネタバレ指定にはさせていただきますが、
よろしくお願い致します。