「ギシュするなら今のうち」ローガン・ラッキー かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
ギシュするなら今のうち
将来有望だった元クォーターバックのジミー(チャニング・テイタム)は膝を痛め、 いまはしがない派遣建設作業員。別れた奥さんとかわいい一人娘は別の金持男と暮らしている。イラク戦争に2回従軍し左腕を失ったクライド(アダム・ドライバー)は雇われバーテンダー。不運に見舞われた兄たちを影ながら見守る口の悪い妹メアリー(ライリー・オキーオ)は地元の美容員。そんな3兄弟が、地元ウエストバージニアで行われる一大イベント“コカ・コーラ600”というNASCAR耐久レース会場の莫大な売上金を奪取する計画をたてるのだが…
『オーシャンズ11/カントリー版』などと揶揄されているが、緻密に組み立てられたシナリオはかなりの完成度。映画前半におけるチャニングとアダムのとっぽい会話に騙されていると後で2度見、3度見するはめになるので注意が必要です。特に兄貴ジミーのトラブル発生を事前に予測した保険のかけ方がお見事。見ればわかることをクドクド説明されてもねぇという方だけに、他の考察サイト等ではあまり触れられてないことをここでこっそり教えちゃいますね。
①1週間早まると何が問題なのか?
金庫番の太めのおばさんの誕生日よりも、1週間早い工事終了が決まってしまったのでは。誕生日でもないのにとボヤくおばさんの車に当て逃げし時間稼ぎ、金庫内にケーキを残留させることに成功します。後は消毒会社に扮したバンク兄弟がケーキにたかったゴキブリの色を判別すれば、自動的に金庫につながるパイプを特定できるわけです。
②ジョー・バンクの作った爆弾はなぜショボかったのか?
邪魔になる噴出口のみを破壊し、札を回収するためバキュームパイプを突っ込めるだけの隙間があればよかったのです。爆破の影響で落石事故など発生したらそれこそ計画はおじゃんです。わざわざ爆弾専門家ジョー・バンク(ダニエル・クレイグ)に声がけしたのも、そのほどほど加減が素人には難しかったからでしょう。白煙を感知した警備員が現場を見回ることも想定内、自動車工場のアールにタバコを吸ってもらってまんまと誤魔化したのです。
③金網が壊れているように見せかけたのは
協力を持ちかけられたジョー・バンクとしては、ありったけの金をネコババする目論見が最初からあったはず。何せPOSシステムが破壊されているので現金でいくらあるのか誰も把握できていない、ここが本件のポイントです。に対し、引き際のルールをきっちり守りたいジミーとしては、奪った金の半分を返還しておけば主催者側も訴えを取り下げることがわかっていたはず。よってあそこであえて時間稼ぎ、バンク兄弟がいなくなった隙に残り半分の金を別の車に積みこむ時間を作ったのではないでしょうか。
④クライドのバーにおかれた古い義手
怪しいとにらんだ容疑者が一同に会しているバーに突如現れたキレキレのFBI捜査官(ヒラリー・スワンク)。ダース・ベイダーを思わせる高価な義手を着けながら接客するクライドの横にポツんと置かれた古い義手。ボヤ騒ぎに紛れて刑務所にこっそり戻った時には、義手は確か現金と一緒に封印されクライドは装着していなかったはず。刑務所のビデオにもしっかり映っていたのでしょう。それがここにあるということは…「あたんたの義手新しくなっているようけど、古いのはどうしたの?」とばかりにニヤニヤ笑いを浮かべるヒラリー・スワンクの目がやけに鋭かったですよね。
⑤本作制作中に強盗にあったのはあなただけ
エンドロールの最後に、実はソダーバーグから重要なメッセージが。「この映画はフィクションです」のクレジットの下に実はこの意味深なメッセージが。制作費をめぐってハリウッドと対立一時監督引退宣言までしたソダーバーグは、現在自身が立ち上げた制作会社で細々と作品を発表し続けています。しかしブロックバスターのように巨額の宣伝費をかけられず興業成績もいまいちとか。本作のようにいい映画は作ってるんですけどね。「ちゃんとお金を奪われて(払って)映画を見てね」お金で苦労しているソダーバーク流の観客もしくは出資者にむけられたジョークだったのではないでしょうか。ふたをあけるまでいくら儲かるのか誰にもわからないところや、後で協力者(出資者)に収益金を分配するところなど、このクライム・ストーリーそのものがどこか映画制作と似ているのです。
今回のコ口ナ騒動で映画関係者も大分痛手を受けているようで、今後湯水のごとく宣伝費をかけられなくなってくる時代がやってくるかも。そうしたらやっぱり本当にいい映画を作れる映画監督さんだけが生き残っていくのではないのでしょうか。