「吉野家モットー」STOP いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
吉野家モットー
『早くて・安くて・ウマい』というのが、キム・キドク監督の信条?!とのネット情報なのだが、まぁ、所謂『即興』芸術みたいなものに相通ずるものなのかもしれない。日本でも有名な監督であり、以前ラジオでも誰かが『絶対の愛』を紹介していて、これが又どうかしていているらしい世界観であるとのこと。観てみたいとはおもっていたのだが、今回の機会で今作品を観ることが出来た。なにせ触込みが仰々しく、大変問題作であると・・・。確かに、日韓の相互不信、そして日本の3.11原発問題を韓国人がどう描くのか、かなりチャレンジをしたということは想像に難くない。という訳でその宣伝文句を信じて鑑賞したのだが。。。
ストーリー展開は確かに信条の如く、非常に早く進んでいく。そんなに間を空かさず漫画のコマ割の様に場面が進んでいく。逆に速すぎる位で、福島と東京の往復の地理的な感覚が伝えられていないように見受けられる。否、この作品は確かに沢山の矛盾というか無理が詰め込まれているのだが、しかしそのあり得ない事自体を含めて、あの未曾有の大惨事に対する監督の訴えたい気持ちが表現されているのだろうと良いように考えてみる。送電線をグラインダーで倒す、パチンコ店にその筋の用心棒らしき人間がいる、簡単に非難地域へ戻って生活してる、脇役、チョイ役の台詞の噛み倒しetc… まぁ、ツッコミどころ満載さを、監督の強いメッセージ性として、撮影機材をデジカメしたせいでのISOの高感度さによる全体が白く飛んでまるでそれが映像の効果を結果的にもたらしている、つまりこの作品の抽象性みたいな、まるで誰かの脳内妄想での寓話を紡いでいるようなそんな不可思議な錯覚を観客に落とし込んでいる。主人公の夫婦のパラノイアが後半になるにつれどんどんターボがかかり、取憑かれていく様は、確かに過剰を信条とする韓国映画の一つの矜持でもあるから、日本で撮った日本の俳優の演技でもそれは、まさしく怒れる韓国そのものなのかもしれない。モキュメンタリー的な手法で、最小クルー(照明がいない、俳優がプロデューサー等々)での八日間の強行スケジュール撮影がそれを物語っている。
さて、感想始めの部分の問題部分であるが、そんなゲリラ的撮影を敢行したお陰で、所謂無許可のロケを行っていたようで警察沙汰ギリギリのタイトロープをしていた、つまり、しっかりと刑法に触れるようなシーンが映っており、これが『問題作』だということであるとのこと。しかし、それは言わないことが華なのではないかなぁ・・・ 邦画でももうそういうイリーガルなことは、得意のコンプライアンスに抵触してしまうので映画会社もそこは避けたいとの思惑は慮ることが理解出来る。なにせ、投資が無駄になるからね。それはどんなミニマルバジェットであっても同様だから、やったとしてもしらばっくれれば、スキを与えないのだろうが、今回の上映後の出演者登壇において、主役の夫役の俳優が自慢げに新宿ロケのネタバレを吐露していたのを聴いていて、『しらを切る』事の大事さを併せて感じざるを得ない一寸残念な気持ちである。
ラストのオチは、しかし残念なことに障害を持って産まれてしまった夫婦の子供は、その障害である異常な聴覚が、もしかしたら将来、危険を察知する重要なファクターになり得るという可能性を秘めてのエンディングで、ある程度のカタルシスが得られることの安定さに救われた。