「信念を曲げない姿に感服」女神の見えざる手 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
信念を曲げない姿に感服
見事な展開。
最後はここまで辛辣な手段を使っておいて、一般的な正義論をとうとうと述べて負けるのか、とヤキモキしたが、さにあらず。あくまでもエリザベス流に敵の鼻をへし折った。
ロビイスト同士のTV討論。女性の欠点である感情論が暴走したのかと思いきや、実はそれも演技。
そして、なんと「右腕」は切り落とされていなかった。
引き抜いたシュミットも硬直する。この女、信頼できるが信用はできないとその目は語っていた。
しかしいくら勝つためとはいえ、自分の人生の五年を賭けられるだろうか(刑期短くなるにしても)?彼女がどんな生き方をしてきたかはもうどうでもよく、その胆力に脱帽するしかない。そして信念は絶対曲げない姿に、やり方はどうであれ私は尊敬の念を抱いた。
また、「銃規制」というテーマも興味深く、実際起きた事件の生存者も登場していることから、銃を取り巻くアメリカの動向や歴史を振り返る勉強にもなる。オバマやトランプなど、政権が変わるたびにその行方に注目が集まるテーマだし、学校での銃乱射事件などの報道があるたび、日本でも大きく扱われる案件である。
映画ファンのなかでは、あの名優チャールトン・ヘストンが「全米ライフル協会」の会長だったことが【ボウリング・フォー・コロンバイン】で印象に残っているのではないか。
劇中論争の争点になった「合衆国憲法の修正第2条」。
「A well regulated Militia, being necessary to the security of a free State, the right of the people to keep and bear Arms, shall not be infringed(規律ある民兵は自由な国家の安全保障にとって必要であるから、国民が武器を保持する権利は侵してはならない)」
日本の憲法第9条と同じく、非常に曖昧ですね。
劇中に話題にのぼった1993年に制定されたブレイディ拳銃管理法は、レーガン大統領暗殺未遂事件で半身不随となった大統領補佐官のジェームズ・ブレイディにちなむ。しかしこの法案は販売店に対する規制にすぎない。
全くもって個人的にはリズと同じように車と同じように、銃を全面的に登録制・許可制にすることの何が不合理なのかと思う。
正当防衛で銃が必要と敵陣営は言うが、実際の統計で銃犯罪は正当防衛に使われる30倍近く起きているという。
だが米批評サイト「Rotten tomatoes」では、低評価も多い。
映画ではエリザベスのおかげで法案は成立に傾いたが、このエリザベスのサイバネティックス・ゴキブリ作戦があまりに非現実的なのと、あまりに銃擁護派を悪役に仕立てているのが、その理由なのかもしれない。
本編の流れに全く関係ないが、エスコートサービスの男性を追い返した場面で、「時間を使わせた」ことに対してきっちり報酬を払う姿勢はさすが上に立つ人間だと思った。
日本人は従業員に対し拘束している時間に報酬を払うという概念が低いと思う。
ジェシカ・チャスティンは政治的な映画によく出演しますね。その頭脳明晰そうな美貌が今回もぴったり。脚本のジョナサン・ペレラは初執筆とは思えないスリリングな展開を描き、彼女にゴールデン・グローブ主演女優賞ノミネートをもたらしたのだから凄い。