「なぜ感動しないか。じつにもったいない作品」あしたは最高のはじまり Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
なぜ感動しないか。じつにもったいない作品
全米ヒットを記録したメキシコ映画「Instructions Not Included」(2013/日本未公開)のフランス版リメイク作品である。べつに主演はオマール・シーである必要はないと思うが、コメディ映画だし、まさにオマール・シー向けに大胆にアレンジされたといった感じ。
南仏コートダジュールの軟派男サミュエルのもとに、かつて関係を持った女、クリスティンが訪ねてきて、赤ん坊のグロリアを残して立ち去ってしまう。慌てて、彼女を追いかけロンドンへ向かうが、仕事もクビになり、言葉も通じない異国の地で、馴れない父娘生活が始まる。
ここから8年が経過する。何とかグロリアを育て、共に、生活を軌道に乗せてきたサミュエルのもとに、突如、母親のクリスティンが現れて、親権を主張するという暴挙に出る。あり得ない話が、あらぬ方向へ展開していく・・・。
オマール・シーは「最強のふたり」(2011)で大ブレイクして、いまや世界的にも最も観客を呼べるフランス人俳優のひとりである。しかし「最強のふたり」以降は、空回りしているように感じる。
ハリウッドでも大作出演が続くが、「X-MEN:フューチャー&パスト」(2014)のビショップ役、「ジュラシック・ワールド」(2015)、「インフェルノ」(2016)、「トランスフォーマー/最後の騎士王」(2017)など、主要キャストに呼ばれているものの、その共演は、まるで飼い殺しに近い。
それは、多分に"アフリカ系フランス人"というキャラクターに縛られてしまうことにあるように思う。本人の意思に反して、人種オーダーばかり来るのではないだろうか。
そこで面目躍如。フランス映画なら主役を張れる。実際フランス国内で8週連続トップ10入りというから、そこそこのスマッシュヒットだ。しかし、本作には映画としての出来に難がある。
画ヅラは、まるでクヮヴェンジャネ・ウォレスと、ジェイミー・フォックスの「アニー」(2014)みたいだ。これはあきらかなパクリで、監督の才能のなさ。
また、いきなり8年経過させるにも無理がある。これは尺の問題ではなく、もっとやり方があるはず。
後半の、父娘のツラい別れを想像させるのに、幼児から少女への成長や可愛らしさ、いとおしさや苦労が描ききれていない。もっと幸福と困難の両局面がバランスよく必要だ。
たとえば、「おおかみこどもの雨と雪」(2012)のように、親から見た子供の成長は走馬灯のように速く、そして途方もない愛情の深さといとおしみを伴って描ければいいのに。
エンディングに隠されている、アッと驚くはずのヒミツの暴露がイマイチになるのも、ホン(脚本)の仕上げの欠陥か、演出の稚拙さとしか思えない。実にもったいない。
オマール・シーが悪いわけではないが、「ショコラ ~君がいて、僕がいる」(2015)でも、オマールは出しに使われていたし、ハズレくじが多い。もっといい役を選んでほしい。
(2047/9/12 /角川シネマ有楽町/シネスコ/字幕:星加久実)