「人生はリズムに乗って」あしたは最高のはじまり 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
人生はリズムに乗って
オマール・シーは「サンバ」や「最強の二人」を見て、いかにもアフリカンルーツの風貌と優れた演技力を備えた稀有の俳優だと評価していた。本作の演技はそれらに加えて運動神経のよさも発揮した。特にリズム感のよさは抜群だ。
前の年のひと夏きりの女がやって来て赤ん坊を置いて去ってゆくというアイデアは秀逸で、その後の展開が面白くならないはずがない。本当に冷たいとこだったら赤ん坊を行政に預けて物語が終わってしまう。そうならないであろうことを見越して、女は赤ん坊を男に預けたのである。
主人公は自信過剰で自己顕示欲が強くて女好きというイタリア映画の登場人物みたいな、男なら一度なってみたいキャラクターである。それが赤ん坊を預かったために人生が変わってしまう。女たちとの薄い関係性から、子供との濃密な関係性に人生がシフトするのだ。
アメリカ映画だったらドタバタ喜劇で終わってしまうが、そこはフランス映画だ。常に哲学的な反省を忘れない。ロンドンでユーロが使えなかったりする時事的な場面も加えつつ、問題を抱える娘との別れの予感に悩む複雑な男心を描いていく。
冒頭のポップなイラストの連続に象徴されるように、映画はリズム感に溢れている。それはオマール・シーのキャラクターによるところも大きい。喜びも悲しみもリズムに乗って、時は過ぎていく。
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