「飛んで火に入る黒い虫」ゲット・アウト 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
飛んで火に入る黒い虫
昨年2月の全米公開時は特に気にも留めていなかった。よくある低予算ホラーの一本。
ところが!
製作費僅か500万ドルに対し、OPだけで約3000万ドル、最終的に約1億7000万ドルのサプライズ大ヒット!
しかも、批評もメチャクチャイイ。(ロッテントマト支持率98%!)
一体何だ、このホラー映画は!?
あらすじを聞いて、久々にお~っ!と思った。
ホラーはホラーでも、心霊現象や殺人鬼の類いじゃない。人種差別をホラーに転換。
その手があったか!
そしたら非常に気になり始めてきた。
そうこうしてる内に、賞レースでも善戦。低予算ホラーとしては異例中の異例のアカデミー賞にもノミネートされ、脚本賞を受賞!
早く見たい!
日本では小規模公開で当然ながら我が地方の映画館では上映される事なく、レンタルを首を長くして待っていた。
黒人青年クリスは週末、白人の恋人の実家を訪ねる。
別に人種間が絡むどうのこうのじゃなくても、恋人の両親に会うというのは緊張するもの。万国共通。
恋人の両親は快く迎えてくれた。どうやら人種に偏見は無いようだ。
でも…
会話中のトゲが引っ掛かったような感じ。
やたらと黒人の素晴らしさを話してくる恋人の父。
やたらと催眠術の話をしてくる恋人の母。
やたらと健康そうな身体を誉めてくる恋人の弟。
人種に偏見は無い筈だが、黒人の使用人が居る。
やがて友人や隣人を招いてのパーティー。皆の視線が自分に注がれているのを感じる。
その客人の中に、自分と同じ若い黒人が一人。何処かで見覚えが…。
何か、ヘンだ。
本作が秀逸なのは、例えば、実は両親は本当は人種差別主義者でどんどん化けの皮を剥がしていく…という、ああ、やっぱり、の展開になっていない事だ。
終始まとわりつくような違和感。それがドキッ!とかビクッ!とかなどの怖さより気味悪い。
次第に明らかになっていく衝撃の展開。
確かに戦慄モノ。
もし、自分の身に起こったら…。
さすがに明かせないが(一応はネタバレチェック)、罠にハマり、真っ暗な底なし沼に落ちていく。
催眠術によってそれを具現したイメージも印象的なシーンだ。
ダニエル・カルーヤの受け身の恐怖演技。オスカーノミネート、やったね!
周りの怪演。
そんな中で、クリスの友人がユーモアを交えつつ、ナ~イス!
やられっ放しのクリスが遂に反撃に出るカタルシス。
伏線も効いている。
人種問題の社会的なテーマを据え、ブラック・ユーモアやホラーやショッキング・スリラーなどのエンタメ性もしっかり抑え、戦慄と巧みな展開に唸らされる。
ジョーダン・ピールの手腕に脱帽!
確かに面白かった!
映画の新たな才やアイデアってホント尽きない。それこそ、底なし沼のように。