「不思議な魅力に引き込まれ」ミッドナイト・バス 羊初運さんの映画レビュー(感想・評価)
不思議な魅力に引き込まれ
地元の新潟が舞台だから見に行った。久しぶりの映画鑑賞。次々と見知った風景が出てきてわくわくする。だけどそれだけじゃない。作品そのものに魅せられた。
まずキャスト。元妻と彼女の間で揺れる主人公を原田泰造が演じる。お笑いのイメージが強いだけにかえって抑制の効いた演技がはまる。免許を取り吹き替えなしのバス運転もリアリティ十分。元妻の山本未来は更年期の不安定な中年女性になりきっている。よくも悪くもストーリーを引っ張る。まるで彼女のための作品と感じるくらいだ。小西真奈美は耐える恋人役がいじらしくかわいい。葵わかなは若いのにうまい。朝ドラ主役はだてじゃない。七瀬公は必死に演じている様子がういういしい。そして長塚京三は圧倒的存在感。物語をぎゅっと締める。
総じてキャスティングの妙と各人の好演が光る。
演出もなかなかだ。関越トンネルの行き来が主人公の心象風景の切り替えになっている。主人公と元妻の告白シーンのカット割りが斬新で驚いた。主人公が男泣きする場面の撮り方、音処理も秀逸だ。ラストも凝っている。
脚本は淡々と進むようでメリハリがある。各キャストそれぞれに印象に残るいいせりふがあるのがすごい。
音楽は川井郁子のテーマソングがいい。バイオリンのもの悲しい旋律が頭を離れない。劇中、葵わかなたちアイドルグループが歌う曲もインパクトが強い。山本未来の出現時に流れる「ローズ」が実にロマンチックだ。大人の恋?にマッチする。
上映時間は2時間半。通常の作品より長いが、そんなに感じさせない。気が付くと不思議な魅力に引き込まれ、ラストを迎える。
テレビドラマと比べてはいけないが、丁寧に作っている証なんだろう。映画っていいな。あらためてそう思った。