「親の居ない子供たちに不幸を覆い被せるな!」ぼくの名前はズッキーニ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
親の居ない子供たちに不幸を覆い被せるな!
たかだか70分にも満たない尺ながら、不思議な魅力に溢れたスイス製ストップモーション・アニメ。
自分はどうしてもストップモーション・アニメのカクカクした動きや、アナログと手作りの温もりが好きだが、内容の方はなかなかにシビア。
父親は蒸発、酒浸りの母親と暮らしている9歳の少年。
本名はイカールだが、ズッキーニと呼ばれている。
ある日、母親が不慮の事故で死去…と言うか、ズッキーニの過失で母親を死なせてしまう。
子供が主人公のアニメーションなのに、何ともショッキングな幕開け。
親切な警察官の助けによって、同年代の子供たちが暮らす孤児院に預けられる事に。
心を閉ざした孤独な性格故、馴染めない。
周りの子供たちも変わった面々ばかり。
リーダー格のシモンからイジメの洗礼…。
ここは孤児院ではなく、少年院か何か…?
帰りたい…。ママに会いたい…。
ある日、ズッキーニとシモンが喧嘩。
しかしこれによって、2人の距離が縮まる。
シモンがしつこく突っ掛かって来たのは、ズッキーニがここにやって来た理由を聞き出そうとしていたから。
ズッキーニの経緯を知り、シモンは同情する。
ズッキーニもまた、シモンや他の子供たちの経緯を聞く。
皆それぞれ、悲しい過去があって、ここに居る。中には、親が犯罪者の子も…。
ズッキーニは母親を亡くしたが、ここに居る子供たちのほとんどは、親に棄てられた。
自分ばかり不幸と思っていたが、自分も彼らと同じ…いや、もっと不幸な子も居た。
抱えているものを打ち明けてしまえば、後は自然に。
最初はイヤな奴と思ったシモンや変わった奴らと思った他の子供たちと仲良くなっていく。
心を閉ざしていたズッキーニも、心を開いていく。
ここが、子供の不思議。
子供の順応力は高い。
子供たちはあっという間に仲良くなる。
院にもう一人、仲間が増える。
その女の子カミーユにズッキーニは恋をする。
カミーユは魔女みたいな叔母に引き取られようとしていたが、ズッキーニは仲間と共にそれを阻止する。
皆で遊ぶ。皆で出掛ける。
皆いつも一緒。
本当に不思議なものだ。
来た時はあんなにイヤだったのに、
こんなにもここでの生活が明るく、楽しく、好きになるなんて。
欠けがえのない友。
欠けがえのない場所。
欠けがえのない日々。
…が、それは長くは続かない世の不条理。
ズッキーニとカミーユは引き取られる事に。
2人を一緒に引き取ってくれるのは、いつもズッキーニを気に掛けてくれる親切な警察官。
だからこれは、願ってもない夢みたいな幸運。
でもそれはつまり、皆と別れ、ここを出るという事。
本音が漏れる。皆と離れたくない。皆とずっと一緒にここで暮らしたい。
そんな時、シモンが背中を押す…。
強がってる子も居るが、本当は皆、親に会いたい。親と一緒に暮らしたい。
優しい里親に引き取られ、温かい“家族”で暮らしたい。
それが叶う子も居れば、叶わぬ子も…。
親を亡くした子供たち。
親に棄てられた子供たち。
どうしても不幸が覆い被さる。
が、子供たちは大人以上に逞しい。
希望や明るさ、楽しさ、幸せを見出だす。
どんな場所であっても。どんな時でも。
ティム・バートン作品のようなキモカワいいキャラ、奇妙な世界観。
見始めた時の暗い印象から、まさかこんなにも温かさと感動を感じるとは…!
愛すべき良作。
苦言が一つ。
峯田和伸の吹替は完全にキャスティングミス。9歳の子供なのに、おっさん声。
なのに、否定的な意見があまり見当たらない。
『未来のミライ』の上白石萌歌はあんなに叩かれたというのに…。