「生きることは食べること」ふたりの旅路 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
生きることは食べること
出だしはコラージュ風で、いろいろなシーンが行きつ戻りつする。どういう状況なのかがわかりにくいまま、作品は進んでいく。この調子で日常的な整合性が得られないままに終わるのかと思っていると、だんだん光が差して設定が明らかになる。その過程で、桃井かおり演じるケイコの心情が浮かび上がってくる。
最初から設定を明らかにしてしまうと、観客にバイアスが働いてしまい、複雑なケイコの心理状態に踏み込む前に勝手な解釈をしてしまったかもしれない。このあたりの作りこみは非常に卓越している。
リガは低い街並みに緑と水が豊かに合わさった美しい都市だ。日本の着物がよく似合う。街並みを守ろうとする姿勢と、着物ショーなど、他国の文化を受け入れようとする進取の精神がこの町の文化を維持しているように見える。この町を旅したケイコの心が次第次第に素直になってゆくのは、この町が持っているおおらかさによるものかもしれない。
桃井かおりはやはり大女優である。ケイコという役柄をしっかりと演じながら、自分の世界を表現する。ケイコはあちこちで色々なものを食べる。それはレストランの食事だったり、公園でのおにぎりだったり、市場で買ったものだったりする。食べるシーンが多い理由は、作品が進むにつれて明らかになっていく。どんな状況でもどんな気持ちのときでも、美味しいものは美味しい。生きることは食べることなのだ。
静かに進む映画だが、見終わるころには生きつづけていく気力が湧いてくる、とてもいい作品である。
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