劇場公開日 2017年5月12日

  • 予告編を見る

「シャマラン節炸裂のジャンル分け不能作品」スプリット りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)

4.0シャマラン節炸裂のジャンル分け不能作品

2017年5月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

M・ナイト・シャマラン監督最新作。一時期不調だったシャマラン監督、前作『ヴィジット』で復活をうたわれたが、個人的には「?」の前作。
しかしながら、本作の後も『アンブレイカブル』の続編の企画が進行しているというニュースも聞き、さぞやシャマラン節復活だろうと期待の本作。

ケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)、クレア(ヘイリー・ルー・リチャードソン)、マルシア(ジェシカ・スーラ)の女子高生3人。
友人の誕生パーティの帰り、何者かに誘拐され、監禁される。
誘拐したのは謎の男(ジェームズ・マカヴォイ)。
3人にはただの潔癖症の男に見えたが、出てくる度に人格が変わっているようにも見えた。
それもそのはず、男はフレッチャー医師(ベティ・バックリー)のもとに通う多重人格者だった・・・

というハナシで、『ルーム』や『10クローバーフィールド・レーン』などで流行の変型監禁もの映画。

監禁もの映画での面白さの中心は、被害者がどのようにして犯人を倒して脱出するか。
なんだけれども、この映画、監督がそんなところに面白さを求めていないのはありあり。

登場する犯人は多重人格だけれど、監禁場所がどれぐらい脱出不可能なのか、犯人がどれだけ危険なのかはあまり描かれず、ひたすら謎の男の行動に描写が集中するからだ。
だいたいにおいて、犯人が精神分析医と長々やりとりする場面なんて、通常の監禁もの映画では不要。
でも、この映画では尺を割く。

で、そのやりとりが興味深く、男の人格を握っているのは誰で、その狙いが何なのか、そこのところに関心が集まる。
もうひとつ興味深いのは、フレッチャー医師が早々に語る説で、「多重人格者は、往々にして、人格によってその肉体的反応までも変化させる」というもの。

あれれ、これって、どこかに記憶がある。
思い出したのは、初期のデヴィッド・クローネンバーグ作品。
「精神の変化に基づく肉体の変化」。
『ビデオドローム』『ザ・フライ』など、精神変貌と肉体変貌が合致していた映画。

そうなると、この映画の結末は、謎の男の肉体変貌だということは早々に気がつく。
ならば、何に?
キーワードは24番目の人格。
事件の首謀者といえる3つの人格が時にいう「ビースト」。
ほほぉ、そうなるのね。

さらに、興味深いのは、ときおりフラッシュバックさせる、監禁された女子高生のひとりケイシーの回想。
父と叔父とともに幼い時分に出かけた鹿狩りの物語。
この鹿狩りの物語は、その後、ケイシーのトラウマへと繋がり、そのトラウマは謎の男と呼応する。

ここいらあたりのハッタリ感満載の物語の重層性は、シャマラン節炸裂である。

さらに、細かい描写にもシャマラン節が炸裂する。

どこだかわからない監禁場所、しかしながら、各ドアの錠は差し込み式のちゃちな物。
簡単に逃げ出せそうなのに、逃げ出せないように焦らす演出(針金で差し込み式錠を外そうとするしつこい描写などに顕著)。

伏線を張っているにもかかわらず、説明しないぶっきらぼうな演出(ケイシーが鍵の在り処を見つける描写はかなり唐突だが、その直前でちょこっとだけ写している、とか)。

後半になればなるほど、この手の演出が増えてくる。
そして、映画はこの手の演出が増えて、監禁ものから別の種類の映画に変質する。

まさにシャマラン節。

そして、着地点にはビックリ。
監禁ものだったことすら忘れさせられる。

それにしても、冒頭に挙げた次回作のニュースを知っていたので、ラストのラストは愉しめた。

ただ、このままでは次回作は超人ものの変型になりそうで、ヒーロー映画全盛の現在としては、「?」と思ってしまうのだが。

りゃんひさ