ヒトラーへの285枚の葉書のレビュー・感想・評価
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“僕だけが全ての手紙を読んだ”
ただ夫婦に焦点を当てるだけでなく、エッシャリヒ警部の置かれた状況や心情が丁寧に描写されていて、印象深い作品になっていた。
教養のあるエリートであろう警部が、親衛隊という上には逆らえず、容疑者を自殺として処理し、最後は妻をも逮捕せざるを得なくなる。その苦悩が痛いほど伝わってきた。
285枚の葉書のほとんどがすぐに警察に届けられていたことが時代を物語っている。
届けられなかった18枚の葉書がなんらかの形で誰かの心に届いていたことをただただ願う。
国に息子を捧げたんだ
【ヒトラーへの285枚の葉書:おすすめポイント】
1.アンナ・クヴァンゲル役エマ・トンプソンの演技が秀逸!!!
2.アンナ・クヴァンゲル役エマ・トンプソンとオットー・クヴァンゲル役ブレンダン・グリーソンの絡みやセリフが素敵!!
3.とにもかくにも脚本が泣ける!
【ヒトラーへの285枚の葉書:名言名セリフ】
1.アンナ・クヴァンゲル役エマ・トンプソンの名言名セリフ
→「息子を捧げたんだ これ以上の募金があるか」
→「俺はメカニック(職工長)だ」
→「人間はみんな重要だ」
2.オットー・クヴァンゲル役ブレンダン・グリーソンの名言名セリフ
→「ロマンチックね」
→「あなたと踊りかったけど、誘われなかった」
→「あら?踊る気にになった?」
→「今はあなたが全てなのよ」
→「来て」
無口な人達の抵抗
特にオットーはどこにいても無口。だが自分の考えを持ち実行する。家族への愛が伝わる。
ダニエル・ブルュージュはとても複雑な役を自然に演じ、この映画の厚みを作っていた。
夫婦と同じアパートに住むユダヤ系老婦人、判事、住民を監視する密告者、郵便配達人などの人物像の表現により、この時代の息苦しさが明確に伝わった。
逮捕されてからも省略された表現が余韻を残した。裁判で夫婦が逮捕以来初めてそして最期に再会した場面は、2人の表情にぐっときた。
観てよかった
1940年6月、ベルリンで暮らす労働者階級の夫婦オットーとアンナのもとに、最愛の息子ハンスが戦死したとの報せが届く。夫婦で悲しみに暮れていたある日、オットーはヒトラーに対する批判を綴ったポストカードを、密かに街中に置く。ささやかな活動を続けることで魂が解放されていく2人だったが、やがてゲシュタポの捜査の手が迫る。自分の工場でうっかり手紙を落としてしまい逮捕される。285通のうち届け出られたのは267通で18通は行方不明、267通すべてを読んだゲシュタポの捜査官はすべてを窓の外に投げ捨てて自殺してしまう。
上中層と下層の断絶を描く映画
序盤、映画の主題とは別に主人公と同アパートメントに住むユダヤ人老婆を巡るエピソードが展開され、紳士的な上中層インテリとひたすらに老婆を食い物にしようとする下層とが描かれ、戦間戦中期のドイツの荒廃ぶりがよく表現されています(台詞は英語だが)。ここで観客に下層に対する憎悪「このクズ死ねよ」を誘導しますが、その感情こそがナチの社会秩序を支えているという皮肉が素晴らしいです(台詞は英語だが)。
中盤から密かに犯行を重ねる主人公夫妻とそれを追う刑事とでサスペンスじみた二重主人公劇という映画の主題となりますが、両者のやり取りもなかなかに面白く展開します(台詞は英語だが)。しかしその攻防こそが両者が上中層に属する事に由来し下層の極北たるナチの「コレだからインテリは!貴様らは俺たちより優秀なつもりか!」という罵倒につながった点で、この映画がWW2の実話をベースにしながらも上中層と下層の断絶と、下層が支配する社会に対する絶望が裏主題である事が示されます(台詞は英語だが)。そしてほかならぬナチにより「クズを殺せ」という観客の願いが不本意に叶うに至り、最高になります(台詞は英語だが)。
終盤は主人公夫妻に同情する上中層が無力にも下層のナチに従属し憂鬱なお気持ちになって終了し、観客はナチ(下層)に対する怒りを募らせますが、その怒りこそが正に上中層が感じたお気持ちであり結局はナチを支持しているという転倒につながり、誠に最高です(台詞は英語だが)。
ベルリンに住まうドイツ人がナチ政府に対して嫌がらせスパムメールを送るという内容で、WW2ドイツ周辺でこれより酷い境遇の人々が更に酷い目に遭う映画などすでに山ほどあり悲劇的戦争映画の主題としては比較的小粒ですが、裏主題により中々に現代的な問題にもつながり誠に素晴らしい映画に思いました(台詞は英語だが)。
重厚さと恐怖
少ない登場人物ながら、冒頭から恐怖政治と密告社会に引きずり込まれます。苦悩する者、従う者、権威に変貌するもの。上から下まで、もはや逃れることのできない我が身保身第一主義の狂気の世界の末期。
「ハンぺル事件」という第二次世界大戦中のベルリンで実際にあった事です。息子が戦死した夫婦がヒトラー批判のポストカードを書いて街中に一枚、一枚と2年以上にも渡って置きつづける。つかまればもちろん死刑は免れない。
なんと無力で無謀で危険な抵抗活動だろう・・・。
子どもへの贖罪、抵抗、心の自由?何が夫婦を突き動かしたのか、事実を推し量るのは難しいが、この夫婦を演じたのエマ・トンプソンとブレンダン・グリーソンによってジワリジワリと自分も突き動かされていくような感覚になる。
パンフレットを見ると原作者ハンス・ファラダ(ペンネーム)についても興味深い。
グリム童話からとったその名前の「ファラダ」は、首を切られても真実を語り続けた馬の名前だそうだ。不遇かつ苦悩の作家が戦後旧ゲシュタポの秘密文書を見て一気に書き上げ、その三ヵ月後には死去。
そして2010年に英訳本が出版され世界的にベストセラーに。そして映画化。で、こうして、ちっぽけで無力な私も観ているというわけだ。
当時、ある夫婦の無謀かつ無力な奇行としか思えないものが、数奇につながって世界中に知らしめられ、影響を及ぼしている。
なんと言うことだろう!彼らのポストカードはこれからも世界中の人に届き続けるのだ!!
この不思議さがこの物語の続きだし、希望ともいえるんじゃないかと思う。
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