「良くも悪くもケネス・ブラナー」オリエント急行殺人事件 鑑定人トマスさんの映画レビュー(感想・評価)
良くも悪くもケネス・ブラナー
新たな解釈や切り口、迫力あるCGや派手なアクションなど、意欲作であることは間違いない。しかし、ケネス・ブラナーその人自身がシェイクスピア作品をライフワークにしてきたため、セリフがとにかく長く、非常に理屈っぽい。良くも悪くもケネス・ブラナーであり、良くも悪くもシェイクスピアである点が、この作品の評価が分かれる点ではないだろうか。
ジュディ・デンチやデレク・ジャコビなど名優が脇を固め、作品としての重厚感はある。新たなアプローチを取り入れ、手に汗握る見どころを随所に盛り込むあたりは、ケネス・ブラナーの力量によるものだと思う。ただ、デビッド・スーシェにより確立された、完成されたポワロ像に馴染んだ観客が、イケメンで派手な格闘もこなす「Hero風ポワロ像」を果たして違和感なく受け入れられるかどうか。高身長・スタイリッシュであまりにかっこ良すぎるあまり、ちょっと白けてしまった。次回作の存在も仄めかされているが、新たなポワロ像の進化に期待したい。
アガサ・クリスティはあまり気に入らなかったらしいが、コミカルなアルバート・フィニー版もなかなかに上質なミステリーに仕上がっており、面白い。イングリッド・バーグマン、ショーン・コネリー、ジョン・ギールグッドなどの名優の演技が見どころ。ケネス・ブラナー版に満足できなかった諸氏はこちらも是非ご覧頂きたい。
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