劇場公開日 2017年9月22日

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「十徳男の奇跡。」スイス・アーミー・マン レントさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0十徳男の奇跡。

2023年6月3日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

笑える

楽しい

知的

無人島に漂着したハンクが絶望のあまり自殺をしようとしたその時同じく一体の死体が漂着する。
この「しゃべる死体」メニーは不思議なことに様々なサバイバルツールを持っていた、まるで十徳ナイフのように。ハンクはこのメニーの力を借りて故郷を目指すことになる。

ハンクは死の間際でも楽しい人生の思い出が走馬灯のように駆け巡ることはなかった。思いを寄せる女性サラに話しかける勇気もない彼はいままで人並みに人生を謳歌することもできなかった。
そのサラに同じように恋に落ちたメニー。彼はまるでハンクの思いを代弁するかのようにサラへの思い、そしてそれを打ち明けられない自分のふがいなさを口にする。それを励ますかのようにハンクはメニーのためにサラになりきり、森の中で二人はひと時の青春を謳歌する。それはハンクが走馬灯で見ることの出来なかったものだった。

父親に口癖のように能無しとののしられ続けた青年ハンクは自己肯定感が低く、実社会では自分の気持ちを素直に表現することができない。自分の生きたいように人生を生きられないそんな自分に嫌気がさして逃げるように旅に出たのだった。
そんな人間がまたもとの世界に帰ったところでどうなる、また同じようなくすぶった人生を送るだけだ。
故郷が近づくにつれ実社会に戻ることに逡巡するそんなハンクをメニーは強引にサラのもとへ連れていく。

思い続けたサラに初めて対面したことでハンクは夢から覚めたように現実を受け入れたのかもしれない。家庭があるサラは自分が一方的に恋焦がれる対象ではないことをわかっていたにもかかわらずその現実を受け入れようとはしなかった。サラに恋焦がれるメニーと同じく。
ただサラへの思いを抱き続けることで自分の殻に閉じこもり現実から逃げていただけではないのかと。

所かまわず放屁をするメニーの姿はある意味ハンクの願望だったのかもしれない。包み隠さず人前で自分をさらけ出したいという。
自分の分身であるメニーの姿を通して自分を知ったハンクは成長する。現実から逃げず、自分の殻を破るのだと。

勇気をもってありのままの自分をさらけ出そう、まずは人前で放屁をすることから実践するハンク。その成長したハンクの姿をまるで祝福するかのようにメニーはおならジェットでその場を立ち去るのだった。

一見奇抜なファンタジー作品だが、ナイーブな青年の心の葛藤を擬人化された死体を使って見事に描いた青春奮闘記。

レント