「確固たる目標を見定め生きる夫婦の凛々しさ」ギフト 僕がきみに残せるもの 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
確固たる目標を見定め生きる夫婦の凛々しさ
数年前にSNS上でブームとなった「アイス・バケツ・チャレンジ」は、この映画のスティーヴ・グリーソンを襲った難病ALSの研究を支援するための資金を集めるために行われたものだった。残念ながら、当の「チャレンジ」自体は、ただ氷水をかぶってSNSでいいね!を押されたい人が本来の趣旨も知らずにやりだして広まった感が強く、実際にSNSでアイス・バケツをかぶった人の中にさえ、未だALSを分かっていない人もいたのではないだろうか。この映画は、スティーヴ・グリーソンしかり、妻のミシェルしかり、常に「ALSの治療法が開発されてほしい」「研究がもっと進んでほしい」と繰り返し口にしていたのが印象的だ。つまりこの映画は、難病に侵された人間を感動的に見せようというような無粋な映画とは違い、彼らがもっとも伝えたい「ALSの認知を広め、研究を促進する」ということを最も重要な趣旨として掲げ、それを伝えるための一つの手段として存在しているものだという風に感じた。
映画の宣伝は(日本だけ?)、難病を患った元アメフト選手が、自身の闘病と並行して生まれいずる我が子へビデオレターを残すという、なんだかマイケル・キートンとニコール・キッドマンが出演した映画「マイ・ライフ」を思わせるような感動的なドキュメンタリーであることを強調していた様子が窺えたのだが実際は少し趣が違うように思えた。確かに彼は息子のためにビデオレターを残し、自分が存在した意味、息子へ伝えたいあらゆるすべてを残そうとする姿が映されもするが、しかし私はこの映画を観ていて、私は涙など流すということはなかった。しかしそれはとても前向きな理由だ。何故なら、そもそも作り手側に観客を泣かせる意図がまったくないということが伝わったからだ。彼らの意図はALSを世間に広め、理解されること。そのために、病気の進行状況を直視させるようなシーンを撮ることも許し、多額の治療費のかかる延命治療を選択する過酷さを包みなく見せた。私はひたすら、この病を戦うために、今何が必要かについて考えさせられた。そしてそれがこの映画のテーマだろうとも感じていた。
何にせよ、目標を持って生きるということがどんなに素晴らしいかということを私はこの映画に感じた。難病を患い、恐らくは打ちひしがれたり落ち込んだり誰かを責めたり自分を責めたりするような時間もあっただろうとは思いつつも、この映画の中に映し出される夫婦の姿は、明確に目標を見定めてそれに向かって生きる様子そのものだった。そのために対立したり疲弊したりもしていたけれど、我が子にメッセージを残し、思いを伝えるのだという目標と、夫の看病と育児をしっかりと両立させるのだという目標と、ALSを世間に理解してもらい、またその研究が進みあらたな治療法が発券されるよう活動するという目標など、それぞれに明確な目標があり、それを実現させるためにできることを常に全力でやっているように見えた。私はその姿に、日々漫然と過ごしている自分の生活を見直すきっかけをもらったし、その御礼としてALSに関して私にできることを少しでもやってみたいという気持ちに自然とさせられた。