「デリー街の悪夢。 ”それ”の”これ”が”あれ”だったら”それ”だったんだけどねぇ…。」IT イット “それ”が見えたら、終わり。 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
デリー街の悪夢。 ”それ”の”これ”が”あれ”だったら”それ”だったんだけどねぇ…。
静かな街デリーを襲う謎の怪物ペニーワイズの恐怖を描いたジュブナイル・ホラー『ITイット』二部作の前編。
舞台は1989年。児童の失踪が相次ぐデリーの街で姿を消した弟を探す少年ビルとその友人たちは、街を襲う怪異の存在を知ることになる…。
原作は『スタンド・バイ・ミー』『ショーシャンクの空に』で知られる、小説家スティーヴン・キング。
弟を探す吃音の少年、ビル・デンブロウを演じるのは『ヴィンセントが教えてくれたこと』『アロハ』のジェイデン・リーバハー(現ジェイデン・マーテル)。
いじめを受ける孤独な少女、ベバリー・マーシュを演じるのは小役時代のソフィア・リリス。
口が悪いビルの友人、リッチー・トージアを演じるのは『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のフィン・ウルフハード。
街を襲うピエロの怪物、ペニーワイズを演じるのは『シンプル・シモン』『アトミック・ブロンド』のビル・スカルスガルド。
全世界興行収入7億ドル以上。これはホラー映画というジャンルに限って言えば史上No. 1の大ヒットという事になる。製作費の20倍近くを稼ぎ出した、まさにモンスター級の怪物映画である。
原作はスティーヴン・キングが1986年に発表した小説『IT』。1990年に放送されたテレビドラマ『IT/イット』に続き、映像化されるのは今回で2度目となる。
原作もテレビドラマも未見の状態での鑑賞。
80年代を舞台にしたホラー映画ということで、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016-)の2匹目のどじょうを狙った作品のように思えるが、企画自体はそれよりもずっと前から始動していた模様。
この物語が映像化されるのは前回のドラマ版から数えて実に27年振りのこととなるわけだが、これはペニーワイズが27年に一度蘇るという設定を受けてのこと。こういうのはなかなか洒落が効いていて好き😊
『ストレンジャー・シングス』の大ブームとペニーワイズの復活が重なったというのは偶然なのだろうが、結果としてこれがこの作品の超絶大ヒットにつながったのだろう。フィン・ウルフハードくんには”ハリウッドの神木隆之介”という称号を与えたい。
”死者を探す冒険に出かける”というプロットは、1986年に公開されたキング原作の映画『スタンド・バイ・ミー』と一緒。はっきり言って、本作は『スタンド・バイ・ミー』にホラー要素を付け足しただけの映画であるとも言える。
みんな大好き『スタンド・バイ・ミー』。そこにホラー要素が付け足されるなんてそんなもん面白いに決まってるじゃん!!…と思っていたんだけど。
何ちゅーか、カレー炒飯みたいな映画というか…。「やっぱカレーと炒飯は別々に食った方が美味くね?」みたいな映画でしたねぇ…。
前半はめちゃくちゃ良い!!✨
LOSERSクラブという『スタンド・バイ・ミー』そのまんまな陰キャ4人組と、ひょんなことから彼らとつるむことになる爪弾き者の3人。この負け犬7人が互いの傷を舐め合いながら、次第に友情を深めていく様子はまさにジュブナイル映画の王道ど真ん中。
萌える木々、煌めく水面、疾走する自転車。家庭でも学校でも窮屈な生活を送る少年少女たちが同じ境遇の仲間と出会うことで傷を癒やし、世界と戦う覚悟を決める。これこれこれだよ俺の好きな青春映画はっ!!って感じでめちゃくちゃアガった!!👍✨
正直7人はちょっと多いかな?5人くらいでいいんじゃないかな?と思わないこともないんだけど、まあ友達は多い方が良いですからね。
街の歴史を調べることで異常な”何か”が存在していることに気がつく、というのもめっちゃ興奮する展開。図書館にある古い文献を調べる、というのは割とホラー映画あるあるだけど、こういうのスゲー好きなんです。個人的なフェティッシュなのかもしれない。今回もそれが見られてとっても嬉しかったです😆
この子供達が友情を結び、事件を解明するために一致団結するというところまでは面白かったのだが、いざペニーワイズが暴れ回り始めると途端に冷めてしまった。
というのも、せっかく”殺人ピエロ”というこの世で最も不気味な存在を扱っているのに、このペニーワイズの見た目があんまり怖くないんですよね。もっとリアルなピエロ、それこそマクドナルドのマスコットキャラのドナルドみたいな普通のピエロの方が100倍怖い。
それとペニーワイズは『エイリアン』シリーズのゼノモーフみたいな、いかにも「私はモンスターです!」みたいな口をしてたけど、こういうのは見せないから怖いのであって、「どうだぁ!!怖いだろう!!」みたいな感じで見させられると逆に怖さが減ってしまう。
怖がらせ方も一辺倒な感じがしてイマイチ。『シャイニング』(1980)のオマージュだと思われる血の洪水とか悪くない描写もあるんだけど、基本はゾンビみたいなヤツを使ってビビらせるという手法。せっかくそれぞれが最も怖いと思うものを具現化させる能力があるんだから、それをもっと活かした怖がらせ方をして欲しかった。
恐怖の権化のような存在であるはずなのに、同じキング作品でいえば『シャイニング』のジャック・ニコルソンの方が断然パワフルでエキセントリック。メイクしてないのにね。
下水道から「ハァイ、ジョージィ🎈」なんて言いながらニコルソンがあの満面の笑顔を覗かせたらと思うと…😨…まぁ実際にその絵を見させられたら怖いを通り越して爆笑しちゃうと思うけど。
はっきり言って、ペニーワイズよりもそれぞれの家庭環境の方が1億倍くらい怖い。屠殺を強いる祖父、狂気的に過保護な母親、そして娘に性的虐待を行う父親など、まさに毒親の見本市のような作品である。
それだけでなく、ビルに対する父親の冷たい態度や、いじめを見て見ぬふりして通りすぎる通行人など、大人の無関心さが嫌というほど描かれているのもこの映画の特徴。とにかく7人を取り巻く世界の息苦しさったらなく、子供達には1秒でも早くこんな街からは出て行って欲しいと願いたくなる。
大人たちの方がペニーワイズよりも断然恐ろしい存在なので、言ってしまえば別にペニーちゃんがいなくてもホラー映画として普通に成立しているのです。出てきたら出てきたで大して怖くないし、割と本気でこの作品におけるペニーワイズの存在意義がよくわからん。
これならスーパーナチュラル要素を取っ払った、この子供達が大人やいじめられっ子という現実の恐怖と戦いそれを克服するという映画の方が見たかった。
少年少女の心情の機微、例えば女の子の身体に興味津々なのにそれを誤魔化す男子たちとか、そういう青春要素は良かったのだがストーリーが進むにつれてそこもだんだん雑になる。
特に気になったのはビルとベバリー、そして太っちょの少年ベンとの三角関係。
匿名で詩を認めるベンと、その詩をビルのものだと勘違いしてしまうベバリー。最終的にその勘違いは解けるのだが、結局ベバリーといい感じになるのはビル。
いやおかしくね!?あの展開なら普通カップルになるのはベバリーとベンだろっ!!
デブとギャルのカップルなんて許されないということなのかおいっ!!😡
一番気になったのはいじめっ子のヘンリー。正直こいつのやっていることはいじめとかそういう域を超えている。「身体に俺の名前を彫ってやる」って、『北斗の拳』のモヒカンかお前はっ💦…まぁそこは良いんですけどね。
実は彼も抑圧的な父親の影響で歪んでしまったのだということが、ストーリーが進むにつれて見えてくる。ナイフを無くしてしまいめちゃくちゃ動揺するシーンとかめっちゃ良かったですよね。
ペニーワイズの手中に落ち、自らの手で父親を殺めてしまうという衝撃的な展開。これからどうなっちゃうの!?と思っていたのに、割と彼の末路は雑。えっそれでいいの?
というか、そうなると黒人少年のマイクは色々と面倒な事になっちゃわない?まさか続編は法定劇?
正当防衛とは言え父親の頭をカチ割ったベバリー。彼女の法的なあれこれも何だかあやふやだったし、そもそも下水道で見つかった大量の遺体を警察やマスコミはどう扱ったのかなど、説明されていないところで気になる点はめっちゃある。それは続編で明らかにされるのかも知れないが、少なくともこの一作だけを観た感想としては何とも歯切れが悪いな…と思わざるを得ない。
架空の都市を舞台にした、恐怖を操る連続殺人モンスターもの、という点では『エルム街の悪夢』(1984)を思い出させる。実際キングも『エルム街』から着想を得てこの小説を書いたんじゃないの?とか邪推したくなるほど、この2作における怪物の倒し方は割と似ている。ビビらなきゃ勝ち。
倒し方は似ているんだけど、その描写の仕方が丁寧かつスマートだったのは残念ながら『エルム街』の方か。
本作はどう考えても敵の本拠地に乗り込むには準備不足だったし、倒し方に気付くロジックもいい加減。そもそも倒し方もなんか親父狩りにしか見えなかったしね。
前半のジュブナイル展開は丁寧かつ瑞々しくとても好みだったのだが、後半のモンスターホラー展開は今ひとつ。ペニーワイズくんには是非ジャック・ニコルソンに弟子入りし、怖がらせるとはどういう事なのかを伝授してもらって欲しい。