劇場公開日 2017年9月1日

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「駆け込みゾンビは大変危険ですのでお止めください」新感染 ファイナル・エクスプレス 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0駆け込みゾンビは大変危険ですのでお止めください

2017年9月9日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

興奮

幼い娘を連れて釜山行きKTX(韓国高速鉄道)に乗った主人公。
だが時を同じくして、人間を狂暴化させる謎の
ウィルスが韓国全土、そして列車内にも蔓延!
という、『ドーン・オブ・ザ・デッド』ミーツ
『新幹線大爆破』ななんとも威勢のいい
韓国産アクションホラー大作が登場。

大味なB級ホラーになるかと思いきや……いや、面白い!
ゾンビホラーに列車アクションに群像ドラマにと
てんこ盛りなのに、これらを非常にうまく捌いて
観客を飽きさせず、最後には感動さえさせる
高レベルなエンタメ大作に仕上がっていた。
過度にグロテスクな描写もなく、それ以上に
『パニックに巻き込まれた人々の群像劇』という
面を強く打ち出しているので、ゾンビとかホラー
とかニガテという人も割とイケると思います。

...

列車内を雪崩のように押し寄せるゾンビの群れ!
テジョン駅構内での大パニック!
車両基地での逃亡戦!
パニックアクションとしての映像スケールと
テンションはハリウッド大作にもひけを取らないほどで、
特に9号車→15号車までの決死行は本作のハイライト!

口は悪いが勇猛果敢なマッチョアジョシ・サンファ、
恋人を救うためになけなしの勇気を奮う野球少年ヨングク、
そして娘のために人間的に大きく成長し始める主人公ソグ、
彼らが団結して列車内を突き進むこの見せ場は、
ドラマの熱さ、活劇の興奮と緊張感、列車という舞台装置
の面白さといった本作の旨味が凝縮された見せ場だ。

...

だが一番の見所は、極限状況での人間ドラマ。
各キャラの設定自体はオーソドックスだが細かな
描写が彼らを魅力的に見せてしっかり感情移入。
野球少年と少女、老姉妹の迎える決着はグッとくるし、
それら多くのサブキャラの見せ場を作りつつ、
この物語は主人公ソグの成長と娘との関係に
軸をしっかり据えていてブレない。

序盤でのソグはとことん身勝手で、保身の為なら
周囲の人間など平気で切り捨てるようなクズ男
(株投資家ってどこの国でもそう見られてるのね)。
そんな男が娘の為に、ひいては他の乗客の為に
どんどん成長していく姿が熱い。
序盤のゲスい主人公に変わって前半を引っ張るのが
サンファ。粗暴だが、妻想いで人間味もある。
そしてソグ以上に自分の保身しか考えない
バス運転手の男。こいつはいわばソグの分身で、
目指すべき目標(サンファ)と忌むべき分身
(バス野郎)を見て、主人公は成長していく。

最後の決着もね、陽気な“アロハオエ”(ハワイ語
で“さよなら”)の優しい活かし方に泣いた。
ダウナーな終わり方が多いのがゾンビ映画だが、
こんな終わり方だって悪くない。

...

さて、細かな部分だが、不満点。

群像劇として面白かったが、さすがにこれだけ
キャラ多数だと描写不足を感じる細部もちらほら。
例えば主人公が投資していた会社の件は
序盤で明示しておくべきだったと思うし、
あの浮浪者さんにも過去を語って欲しかった。
見間違いだったら悪いが、あの人は
冒頭でバンビゾンビを轢いた運ちゃん?
かなりの修羅場をくぐり抜けてきたんだよね、多分。

次に、ドラマ、アクションの濃密さと比較すると
ゾンビホラーとしての要素はやや薄味に感じた点。
列車という舞台の面白さは存分に活かしているし、
『身勝手な人間が最も怖い』というゾンビ映画
では外せない展開もしっかりと描かれているが、
ゾンビそのものの設定はステレオタイプで、
舞台装置のような扱いに感じられる箇所もあった。

噛まれた人がゾンビ化するまでの時間がバラバラ
なのも気になる点で、噛まれて15秒後に変異する人
もいれば、最期までとことん喋ってからという人
もいるので、ちょっと都合の良い設定かなと。
(思い返すに、首に近い所を噛まれるほど変異が
 早いという設定だったのではと推察するが、
 一言でも良いので説明は欲しかった)

...

以上!
まあ上記の不満は細々としたもので、
エンタメ映画としてやはり完成度高し。

思えば数多のゾンビ映画が世に溢れる中で
列車との組合せが無かった(あったかもだが
少なくとも僕は知らない)のは盲点だし、
舞台ばかりに頼らず熱いドラマを盛り込んで
全方位型エンタメに仕上げた点は見事。
大満足の4.0判定です。
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余談:
ゾンビ映画はゲス野郎ほどしぶとく生き残る場合が多いが、
前述のバス運転手さんのゲスさは驚異的! 超ムカつく!
「この○○○○野郎さっさと○ねよ!」
と何度言いたくなったか!(←口悪い)
詳細は本編をご覧あれ。
2017年ゲス・オブ・ザ・イヤー筆頭候補である。

浮遊きびなご