「何も足さない、何も引かない、正統派ホラー芸術」ジェーン・ドウの解剖 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
何も足さない、何も引かない、正統派ホラー芸術
R15+のホラー作品。タイトルを直訳すると、"身元不明者の検死"。"Jane Done(ジェーン・ドゥ)"とは、身元不明の女性呼称。ちなみに男性の場合は、"John Doe"で、日本語では"名無しの権兵衛"といったところ。
遺体安置所で検死を行う、ベテラン検視官と助手の息子。ある日、緊急で警察から依頼された検死遺体を解剖していくうちに、つぎつぎ起きる怪奇現象と、徐々に判明していく驚愕の事実。
何も足さない、何も引かない、正統派ホラー芸術である。尺も86分とコンパクトで潔い。近年のホラーはもっと激しく、もっと変化球を!とヘビーにVFXを駆使した挙句、逆にリアリティを欠いて、何が面白いのか分からなくなってしまったりする。
しかし本作は静かで怖い。遺体安置所は地下にあり、停電でエレベーターが止まり、非常階段口も倒木によってドアが開かず、密室になる。元凶が動かない死体なので/周囲で起きる不可思議な現象でじわじわと追い込んでくる。結局は、フツーの肝試しがいちばん丁度いいのかもしれない。
ヘタなトリックを使わないノルウェー人監督アンドレ・ウーブレダルの、リアリティ描写も丁度いい。
セットで再現された遺体安置所のディテール、遺体の解剖手順の正確さ、流れ出る血液、切開される皮膚や取り出される内臓の質感、ジェーン・ドウ役を演じるオルウェン・ケリーの美しさ(といっても死体)。クリアで高解像度な画質でも破綻しない。ホントは、音声もドルビーATMOS仕様なのだが、シネマカリテにそんな設備はない。
配給の松竹エクストリームセレクションの第一弾とされ、公開は全国わずか4館。しかも第ニ弾の「アイム・ノット・シリアルキラー」が控えているので3週間限定公開。オープニングロゴの"松竹富士"が青いので、新たなクリエイター発掘の"松竹ブルーライン"レーベルに属するようだ。ブルーライン作品はめったに目にしないので、基準がよく分からない。
ちなみに字幕翻訳のテロップがない(これは配慮に欠ける・・・)。劇場パンフもない。
(2017/5/22 /シネマカリテ/シネスコ/字幕:表示なし)