「宮崎アニメの衣鉢は継いだ」メアリと魔女の花 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎アニメの衣鉢は継いだ
スタジオジブリの製作部門閉鎖後に立ち上げられたスタジオポノックの第1回作品。
予告編から、ジブリ時代のヒット作を彷彿とさせるモチーフを多数用いた感があり、米林監督の前2作に感心しなかったこともあって、劇場へ足を運ぶかどうか迷っていました。
が、賛否半ばする評価が、これは観てみなければ、と思ったものです。
英国の田舎、大叔母さんの家にやって来た赤毛の少女メアリ。
両親は遅れてやって来ることになっているが、それまでは退屈極まりない毎日。
学校が始まるまでには、まだ一週間もある。
そんなとき、近所に住むピーターの家の黒猫と灰色猫の二匹に誘われて森に入ったところ、7年に1度しか咲かない不思議な花を見つけた。
その花は「魔女の花」だという・・・
というところところから始まる物語で、その後、メアリは花の力を借りて、異世界にある魔法学校に辿り着く。
物語の骨子は『千と千尋の神隠し』に似ているし、魔法学校のモチーフは『ハリー・ポッター』シリーズに似ている。
まぁ、あの映画のあのシーンに似ているというのを指摘するのは野暮というもの。
そもそも、この手のハナシは似たり寄ったりが当たり前なのだから。
じゃ、どこをどう観て楽しむかというと、主人公に共感できるか、感情移入できるかというところ。
お定まりのパターンのハナシなのだから、ここが一番のポイント。
で、米林監督の前2作では、これが全くできず、ストーリーは面白いのに、観ていてつまらないという結果だったのだが、今回はまるで違って、メアリの冒険にハラハラドキドキしっぱなしだった。
とにかく、メアリの表情、動作が過剰ともいえるほどで、その分、観ている側に感情が伝わってくる。
表情もさることながら、動作も大仰で、カットによっては手足のバランスが実物大ではないところもあったのではなかろうか。
これはたぶん、宮崎駿の十二分に再度研究して、絵コンテの切り方からなにから模倣することに徹したからではないかと推測する。
新しいアニメスタジオの第1回作品、それも、本家ジブリを思い出さずにはいられない題材。
ならば、ジブリの衣鉢を継ごう、それには師匠に倣うのが一番いい。
プロデューサーの西村義明は、そう決断したはず。
彼がジブリ時代に手掛けたのは米林監督の2作品と高畑勲監督の『かぐや姫の物語』。
つまり、非宮崎アニメ。
宮崎アニメを継ぐのを第一目標とし、米林監督らしさ、スタジオポノックらしさを出すのは第2作でいい。
そう思ったとしか思えない。
その結果は・・・
大成功だと思う。
女校長とドクターが昆虫脚型の乗り物で壁を走ってくるシーン、メアリが箒で空を飛ぶシーン、そのほか至るところに躍動感が溢れている。
そして、もうもうひとつ。
宮崎アニメの要石ともいうべき、文明に対する警鐘。
すべてを可能とする魔法をもつ人間以上の何か、得体の知れないものになって(いや、なりきれず)コントロールが効かずに暴走してしまう少年の姿は、原作が1971年に書かれたことを思うと、原子力の暗喩なのだろう。
人間が制御できない力を持つことは・・・と後悔し、持たない方がいいと結論付けるあたり、米林監督作品の前2作にはなかったことだ。
と、絵コンテから始まる外観の仕様のみならず、物語の核心・隠れ主題という内面の仕様も宮崎アニメから受け継ぎ、満足できる一篇であった。
なお、物語的には、魔法学園へ行って帰ってくるまでが少々冗漫なので、ここはもう一工夫欲しかったところ。