「原作への敬意は感じた。しかし時間がなさすぎた。」夜は短し歩けよ乙女 レンロキさんの映画レビュー(感想・評価)
原作への敬意は感じた。しかし時間がなさすぎた。
わずか一時間半でこの小説を描き出したら、これ以上のものは完成しないと思う。が、正直映画のできとしては…というのが本音。原作を知らない人が見れば何が何やらとなってしまうくらいの詰め込み具合。
細かい変化は映画化に当たって仕方ないとして、大きく違うのは原作においては春夏秋冬で4部構成だが、今作では一夜の出来事としてあること。(どちらともとれる風にはしてあるけど)
上映時間が短いために無理もないが、すべてのエピソードがさらっと流れてしまう印象で、4部に分けてほしかった…。が、それには時間が足りないと言うジレンマ。
中でも気になったのが仮にも「青春恋愛小説」なのにその要素が完全に薄まって笑いへシフトされてしまっていること。もう少しロマンチックに感じられる部分に時間をさいてくれてもよかったのでは…(パンツ総番長の恋の相手が大幅に変更されていること。文化祭をコミカルに書きすぎて、乙女が先輩に惚れるのに動機付けがあまりに薄いこと。先輩が樋口式飛行術を身に付ける描写がないこと。冬の出来事がほぼ完全に夢の出来事とされてしまっていること。)
春夏パートの方が絵にはなるが、ストーリーとしては秋冬にもう少し時間を割いてくれないとしっくり来なかった。
一方でよいことは、キャラクターの完成度。星野源の先輩には賛否あると思うが、俳優さんがやる声優としてはそこそこ(やや台詞が聞き取りづらいが)。あれだけの膨大な台詞を読みきるのは難しかったと思う。黒髪の乙女は少し凛としているものの可愛らしく、原作ファンが「イメージと違った!」となってしまうことはないと思われる。樋口師匠については四畳半の時とは違う声優さんであることを忘れてしまうほど馴染んでた。
加えて、森見さんの他作品や四畳半のアニメを知っている人にはおっ。と思わせるネタがちりばめられていること。そういうコアな部分や全体的な雰囲気は原作小説を忠実に再現している。
テレビアニメ放送にして、ゆっくり時間をとってほしかったという思いはぬぐえない。が、映画としてはこれ以上は出来ないだろうという思いで★3.5
特典の小説が原作に寄せられているので、映画特典としてどうなんだwと思いつつも、原作ファンとしては嬉しい。これはやっぱり原作を見てから見る前提で作られている映画なんだと再確認した。