「災害報道と紀行撮影を合体した稀有なドキュメント」世界でいちばん美しい村 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
災害報道と紀行撮影を合体した稀有なドキュメント
ネパール大地震の惨状は本作で初めて知った、調べてみたらラプラック村だけでなく孤立した村落は300ともいわれている。各国から救助隊が派遣されたが空港はカトマンズにしかなく到着しても山岳地帯への道路は地滑りで寸断されてたどり着けない状態だったと言う、にもかかわらずネパール政府は4日後には救助隊の追加派遣を拒んだと言う。政府も相当の混乱状況にあり外国への対応に人員を割く余裕が無かったのかもしれない。そんな中、報道カメラマン出身の石川梵監督はよく村へ入ったと思う。ドキュメンタリー制作は復興のきざしが見えてから思いついたのだろうが心の傷がまだ癒えていない人々のインタビューを撮るのはさぞ辛かったろう。
カメラは無邪気にはしゃぐ子供たちや家族、献身的な村唯一の看護師の活動を軸に村人に寄り添います。タイトルの「世界でいちばん美しい村」は風光明媚な山岳風景ばかりでなく村人の温かい家族愛や郷土愛への賞賛なのでしょう。
石川監督は自身の名に梵とあるように宗教儀式に関心が高かったのでしょう、梵教の葬儀や祭にも尺を割いている。ただ、山羊の生贄や舞踊りが出てくると自分の中でネパールとの距離感が急に変わったような気がした。
宗教は阿片であるとのマルクスの指摘があるが古代人は過酷な生活に耐える為の便法として壮大なフィクションを編み出したのだろう。貧しい家では山羊の代わりにきゅうりを使うとあったが見掛けは日本のお盆の精霊馬そっくり、元はご先祖の霊の乗りものではなく生贄だったのか・・・。
地震国日本なので明日は我が身かもとは思いつつも文明の恩恵にどっぷり浸っている身としては、ラプラックの村人のように逞しくサバイバルすることは不可能かもしれない、ただ、だからといって今更、薪やランプの生活に戻るのは難しい。
災害報道と紀行撮影を合体した稀有なドキュメント作品だが正直、考えさせられることも多かった。