「罪の獣たち、復讐の獣たち」ノクターナル・アニマルズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
罪の獣たち、復讐の獣たち
トップデザイナー、トム・フォードの映画監督第2作。
監督前作『シングルマン』はあまり自分の好みに合わず。
今回はサスペンス。話も面白そう。
実はレンタルして来て、初見は途中で寝てしまった。疲れもあって。
もう一度見てみたら、まあつまらなくはなかったけど…
まずはやはり、トム・フォードのアート・センスが目を引く。
洗練された衣装の数々、白を強調したヒロインのオフィスやギャラリー、それと対照的な美しいナイト・シーン。
とりわけ強烈インパクトを放つのが、OP。もう何て言ったらいいやら…。是非ご自身の目で。
エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホールら実力派のアンサンブルは極上。
中でも、マイケル・シャノン、アーロン・テイラー・ジョンソンが巧演。
本作も美的センスと才気が充分発揮された一作と言える。
が、話の方は人それぞれ見方、感じ方、解釈が分かれるだろう。
ギャラリーのオーナーとして成功を収めるも、夫婦仲は冷え切り、裕福だが空虚な生活を送るスーザン。
そんな彼女の元へ、20年前に離婚した元夫が書いた小説が届けられる。
その内容は非常に暴力的だったが、どんどん没頭していく…。
スーザンの現在と過去、小説の中の話が交錯。
劇中のスーザンさながら小説の中の話に引き込まれる。
ハイウェイを移動中、暴漢に走行を邪魔された挙げ句妻子を殺された男の話。
乾いた荒地の映像も相まって、劇中劇なのに犯罪×バイオレンスとして見応えある。
地元保安官の協力も得て、復讐を誓う小説の主人公。
これがスーザンのパートにどう意図しているのか。
“復讐”や“暴力”がじわじわと現実世界のスーザンに侵食していく。
スーザンは金持ちでイケメンの現夫に乗り換え、元夫を棄てた過去がある。元夫の地位の無さに落胆し、才能の無さも批判した。ある種の一方的で残酷な暴力とも言える。
昔は元夫の小説を批判したのに、今はその才能に没頭。過去にスーザンが元夫へした罪の意識をさいなまれながら、再び彼への想いが…。
しかしこれがあの痛烈なラストと共に、彼女へしてやった復讐だとしたら…。
あのラストも間違いなく、レストランの外から見ていたのだろう。
彼女はまんまと元夫の復讐劇にハマったのだ。
…と、自分は解釈。
実際のところ、その解釈が当たってるかどうか分からない。
きっとまだまだ汲み取れなかった意味合いや話の深みが込められているのだろう。
凡人の私はスーザン同様、暴力的な小説にのめり込み、表面上のサスペンスだけ楽しみ、天才の仕掛けた世界観や物語に敗北を喫したのかもしれない。