「愛の遺言」マンチェスター・バイ・ザ・シー everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
愛の遺言
Manchester-by-the-Seaが地元で、不運の家系と言ってもいいくらいのChandler家。
長男Joeは心疾患でいつ突然死してもおかしくない状態。その妻Eliseはアル中のため離婚。Joeが亡くなった後、息子Patrickは一人残されます。
次男Leeは、自らの不始末で全てを失い、妻Randiとは離婚。
小さな港町で、同情もある一方、やや白い目で見られている雰囲気が漂っていました。
Leeの回顧シーンが、現在と交差するように、ぽつんぽつんと挟まれます。あの事故以来、Leeは陽気な性格から一転、やさぐれて心を閉ざしていますが、彼の人生はほとんど前に進んでいないことが分かります。
元妻達はというと、Eliseはアル中を克服し信心深い男と再婚。Randiも新しい夫と子育て中。女性は一見ちゃっかりしているのかとも見えます。
そして特に対照的なのはPatrickで、父親の死後も社交的なまま、以前と変わらないかのように生活しています。
Lee以外の人間はみな喪失感をたやすく乗り越えて、どんどん前へ進んでいるのかというと決してそうではなく、EliseはPatrickを食事に招いても動揺を隠せず、Randiは心が壊れたままだと告白し、Patrickも冷凍庫の前で突然号泣します(←女の子に熱中してばかりなのでちょっと安心しました(^^;))。誰しも過去の過ちや不幸を抱えたまま生きているのです。
死期が近いことを悟り丹念に準備していたJoeは、Leeに再出発の機会を贈ったのでしょう。ただLeeが背負う十字架の重さは格別。
"I can't beat it."
とても乗り越えられるものではないのだと。
Randiと話すことで、未だ粉々に壊れている自分の心を再認識したLee。あの大惨事を忘れることも、自分を許せる日も来ないのかも知れません。しかしJoe兄さんの愛情は遺産としてLeeとPatrickのこれからを静かに支えてくれると願いたいです。
淡々とした描写でやや尺が長い気もしました。退屈と感じる方もいるでしょう。でも立ち見もいる劇場は久しぶりでした。
重苦しい話を、美しい景色と音楽が、時に冷たく、時に優しく包み込んでいました。