「隣人の教えてくれたこと・・」マイ ビューティフル ガーデン odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
隣人の教えてくれたこと・・
都会のおとぎ話のような映画です、英国の批評家は監督・脚本家サイモン・アバウドの描く世界をマジック・リアリティと呼ぶようです。
個性の強い登場人物たちですが違和感を抱かせない自然な演出、単に美しい風景を切り取るのではなく計算された構図とシーケンス、新玉のセリフ、特に主人公が書きかけの童話を語るシーンの字幕は秀逸ですこれは翻訳の「原田りえ」さんの感性に依るところでしょう。
基本、出てくる人は全員善人なのですが完璧な人など現実の世にいる筈も無く心を開いて接してみなければ分かりません。
その変ってゆくプロセスが開花に似て心和み、萎れて後も実になり種になって続いてゆくのです。整然とした秩序に拘り、メカニカルな造形に惹かれる主人公に隣家の老人がサルビア、カンナ、ダリア、クレマチス、ユリや猛毒のトリカブトまで植えられた自宅の庭を案内します「美しい秩序を保った混沌の世界だ、乱雑ではない混沌だ、この違いを知らなければならない・・」。
元来イギリス固有の草花は乏しく16世紀頃の植民地に咲く色とりどりの草花に魅せられて移植されたのがガーデニングの始まり、産業革命で農村から都会に移った人々が故郷の野山を懐かしんで自然な趣の庭づくりに変っていった。
貴族の愛でた幾何学的なフランス庭園様式とは趣を異にする。英国王立園芸協会が主催するガーデンコンテスト「チェルシー・フラワーショー」では日本風の庭園が優勝に輝いてもいる。
単に立ち退き逃れの庭木の整理なら職人を入れれば済むことと言うなかれ、庭の風情は住む人の心の風景でもあるのだから、そして何よりも主人公は庭の再生を通して一歩踏み出す勇気を培い、念願の童話も上梓できました。サイモン監督のスクリーンというお庭、素敵でした。