「真に「生命」を愛した人の生き様を感じるドキュメンタリー」ターシャ・テューダー 静かな水の物語 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
真に「生命」を愛した人の生き様を感じるドキュメンタリー
静けさと孤独と絵画と庭を愛した女性ターシャ・テューダーのドキュメンタリー。美しい白髪を持った可愛らしい女性(ファッションがまたとてもお洒落!)が街から離れた場所で広大な庭を手入れしながらひっそりと豊かに暮らす姿は、まるで絵本そのものという感じで、大人のための絵本を開いているかのよう。
確かに、彼女の姿に憧れを感じたり、素敵だなぁとうっとりしたりする人々の気持ちがよく分かる!という感じだが、しかしながら彼女の生き様は、我々が想像するよりもずっとアグレッシブで積極的で非常に能動的。それがただの「憧れ」だけで手に入れられる代物ではないことがこの映画を観ているとすぐさま分かる。そしてそれは、長年の月日と手間暇と愛情をかけた美しい庭とまったく同じだと感じた。
彼女はよく「人生は短い」という言葉を口にする。決して、「短い」ことをネガティブにソ耐えているわけではなくて、「短いからこそ不幸にしている暇はない」と言うし、「短いのだから、やりたいと思ったことはすぐにならなければ」と繰り返し言うのだ。やるべきこともろくに分からず、ただの憧れだけでターシャに心酔したつもりになって「きれいな庭だなぁ」「お洒落な暮らしだなぁ」なんて考えていたところに、冷水を浴びせるような言葉。命を愛で、命を育み、そして人生の苦楽を乗り越えてきた人だからこそ、自然と口をついて出てくる言葉なのだろうとも思うし、そしてその言葉がなんとも自然と響いてずしっと重く心に残った。
田舎暮らしに憧れ、ガーデニングに憧れ、絵本のような家具やインテリアに憧れ・・・近年の日本人(特に都会に住む女性)の憧れがそのまま現実になったような暮らしを送るターシャだけれども、知れば知るほど話を聞けば聞くほど、それが憧れだけでは済まない人生の積み重ねであることを思い知らされるドキュメンタリーであり、ふと自分の今の生き方や考え方を思わず顧みてしまうような、含蓄のある映画だった。