「艶やかで美しい映像表現の迷宮」打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
艶やかで美しい映像表現の迷宮
本作は、夏の花火大会の日にフォーカスした多感な中学生のSF恋愛ファンタジーである。時空を超えた、現実と空想を巧みに織り込んだ、映像表現主体の作品なので、杓子定規にストーリーを追っていくと混乱してしまう。意味不明な作品になってしまう。映像表現から我々観客が想像するしかない、感性で観るべき作品である。
本作の主人公は、中学生の典道(菅田将暉)と、彼の同級生であるクラスのマドンナ的存在のなずな(広瀬すず)。典道はなずなに惹かれながら、想いを告げずにいた。ある夏の日、典道、典道同様になずなに思いを寄せる友人の祐介(宮野真守)、なずなは、プールで50m競争をして、典道に勝った祐介がなずなから花火大会に誘われる。しかし、典道は、ある方法で、過去にタイムスリップし、なずなと花火大会に行くことになる。その後も典道は、現実世界で、なずなとの関係で後悔することがあると、過去へのタイムスリップを繰り返し・・・。
本作は、典道の過去へのタイムスリップ回数が多くなるほど、ラブストーリーが核心に迫っていくほど、典道となずなの心理描写は少なくなる。現実感が弱まり、ファンタジー色が強くなる。幻想的で美しい映像表現が主になる。映像は艶やかさを増していき、二人の想いが強まるのが画面から伝わってくる。
人生は、真っ直ぐな一本道ではない。分岐点がある。そして、あの時、あの勝負に勝っていたら、あの時、あの人と別れていなかったら、等々、分岐点での後悔はキリがない。本作は、そんな分岐点での後悔を過去へのタイムスリップという方法で払拭してくれる。もう一つの選択肢を見せてくれる。
ラスト。何事も無かったように、夏休み明け後?の学校生活(点呼)の一コマが描写され、何のナレーションもないまま終わってしまう。結局、その後、二人はどうなったのか? 作品テーマは、ラブストーリー? 人生の分岐点? 映像美? 等々、肝心な所は、作り手側からは提示されない。不親切ともいえるが、答えを押し付けず、観客の感性に委ねたラストであると感じた。
そういうラストだったので、観終わって、スッキリ感はなかったが、幻惑されてしまったという感覚に襲われた。私の感性では捉えきれない不思議な魅力を持った作品だった。