「あなたの人生に訴えかけてくる」打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? kenさんの映画レビュー(感想・評価)
あなたの人生に訴えかけてくる
原作のリリカルな映像とストーリーテリングが好きだったので、正直萌え要素を加えただけの焼き直しならば果たして見る価値があるのか…半ば期待もせずに映画館に足を運んだ。
結論から言うと、よい意味で裏切られた。確かに中盤までは原作に忠実。しかしながらアニメーションならではの表現は、他で引き合いに出される「君の名は」とも異なるスタイルでありながら決してひけをとらない。また、終盤にかけての展開はまるで万華鏡のよう、という表現が正しいかはわからないが、観客の予想を超えて来る。散見される意味不明との意見については、なるほど、確かに製作の背景を知らなければと思うところもあるにはあるが、そもそも、原作自体がテレビ番組「ifもしも」の制約の中で作られたもの、つまり、もともとそこに意味などないのである。つまり、細かい設定に意味を求めること自体が全く意味をなさないのである。そう考えると、単純に五感で楽しもうという気になってくる。
ところで、あなたは自らの人生の中で、もしもあの時…という思いを抱いたことはあるだろうか。ノスタルジックで、甘美で、それでいて感傷的な、胸を掻きむしるようなあの思いを。
本作は、私にとってのマルセル・プルーストである。この痛みを、未来永劫続くかのように思えるこの思いを、今、リアルに私は味わっている。胸にズキンと来る痛みを、繰り返し生きていくのはとても辛いことだ。しかし、だからこそ何度でも願わずにはいられないのだ。あの時、もしも、と。
最後に、本作は岩井俊二版をモチーフにした別の作品である。そこには、敢えてアニメーション映画として生まれ変わらせた作り手の思いが感じられる。誰しもが少なからず持っているはずのそれは、決して一様ではないのだ。そして、幾重にも積み重なる枝分かれした世界のひとつにあなたの「もしも」があるかもしれない。