劇場公開日 2017年8月18日

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「立派なガタイなのに、前のめりで空振りする滑稽な作品。」打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0立派なガタイなのに、前のめりで空振りする滑稽な作品。

2017年8月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

オトナ都合で作られた匂いは、今年の「ひるね姫 知らないワタシの物語」(2017)と同じタイプ。

原作は岩井俊二。岩井監督が注目され、映画界に進出するキッカケになったフジテレビの名作ドラマ(1993)のアニメ化である。

いろいろ頑張ったとは思うが、結局、東宝の主力打者・川村元気プロデューサーって人は、優秀なマーケッターではあるけれど、クリエイターではないということ。

クリエイティブなオールスターが揃って、完璧なものを目指して実力で仕上げれば、ヒットすると思っているところが、広告代理店的な発想でしかない。

原作の岩井俊二に加え、監督は新房昭之、「魔法少女まどか☆マギカ」(2011~2013)、「傷物語」シリーズ(2015~2016)などのヒット作を手掛けた。そして脚本は「モテキ」(2011)や「バクマン。」(2015)の大根仁監督。3人揃って現役監督という豪華なラインナップ。

一方の声優は、主役の島田典道役に菅田将暉、ヒロインの及川なずな役に広瀬すず。こちらもまさに今の日本映画界を支える若手看板俳優だ。これで川村プロデューサーの名前があれば、"お金"(スポンサー)は集まる。

ところが、そういうお金の甘い匂いが、全体のバランスを崩し始める。立派なガタイなのに、前のめりで空振りする滑稽な作品。

致命傷は、原作ドラマが"小学生設定"だったのに対して、中学生にしなければならなくなったこと。広瀬すずと菅田将暉を使いたければ、そうなるわけだ。原作の設定は、初めて心や体に変化をきたす時期、大人っぽく背伸びをしたり、初恋や妄想をめぐらすけれど、8割子供の少年・少女の話なのだ。

つぎに新房昭之総監督とシャフト(アニメーションスタジオ)が担当するという時点で、"エロくなる"ことは想像がつく。いわゆるアニメ嫌いの典型に陥る。シャフト好きのむっつり男子には、いいかもしれないが・・・。

なずなの「カケオチしよ」や、「16歳とかいってごまかして…ガールズバーとか」といった大人ぶったセリフは、子供っぽさを伴ってこそドキッとさせるのだ。エロさを漂わせながら言ってしまったら、それはもうそのまんま少女ビジネスになってしまう。

実写が良くてアニメがダメといっているわけではない。無垢な純情が絶妙なバランスを獲得しているのが、岩井俊二の原作センスだったはずだ。

"ローソン"や"IDEMITSU(出光)"が背景に描かれているのは、スポンサーサービスの王道だが、もっとさりげなくやらないと、ホンキのバナー(看板)になっていて、イラっとする。むしろスポンサーのイメージを下げる。

公開日を8月第3週にして、"シルバーウィーク"(9月の連休)まで狙うのは、昨年の「君の名は。」の手法だが、"シルバーウィーク"まで公開が持つだろうか。

お金をかけているので、映像的にはよくできたハイクオリティアニメである。けれど中身がない。原作が好きなんだろうな…という気持ちはわかるが、思い込みが"前のめり"になってしまったのではないだろうか。

(2017/8/20 /ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ)

Naguy