「欲望願望妄想暴走」打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? チンプソンさんの映画レビュー(感想・評価)
欲望願望妄想暴走
93年の実写ドラマをアニメ化した作品で、原作となる岩井俊二さんのドラマは未視聴。
どこからどこまでが原作通りなのかはわかりません。
しかしハッキリと言えるのは、アニメにエロスを感じる男には大好物の映画であり、
アニメにエロスもなにも感じない男女は最悪の映画であると言えます。
夏の季節に突如転校することになった中学生の“美少女”の及川なずな。
離婚と再婚を繰り返し、三度目の再婚で引っ越すことになった母親と再婚相手に嫌気がさす中、なずなは実の父が持っていたガラス玉を見付ける。
なずなの父は母親の浮気相手だった。浮気の果てに駆け落ちし、今の田舎(茂下:もしも)に引っ越したが、父はなんらかの理由で他界。
ガラス玉は父の形見でもあった。
そんななずなの風貌はまさにアイドル。
大人っぽく、色っぽい。彼女のことが好きな男子は数知れず、主人公の嶋田もその一人。
他愛ない学園生活の中で、プールサイドで一人横たわるなずなを見た嶋田。
友人と遊び半分で始めた賭け水泳50メートル競争を始めようとしたとき、さっきまで横たわっていたなずなが突如賭け勝負に参加する。
「私が勝ったらなんでも言うこと聞いて」
なずなが提案したのは今日の花火大会を一緒に見る約束と、その理由が「好きだから」という告白からだった。
序盤からミステリアスな雰囲気醸し出すヒロインなずな。
いきなり好きとか言ってしまうが、その後の「if」。もしもあの時なずなを引っ越そうとする親の手から救い出せたのならという嶋田の思いの丈をガラス玉にぶつけて投げた際に起きる“別の分岐の世界”では、なずなは花火に行く相手は誰でも良かったというのがわかる。
(主人公の嶋田はわからない。映画を見てるお客さんだけがわかる形)
そこから繰り返し描かれる嶋田のなずな救出の失敗→やり直し→失敗→・・・は全て嶋田が望む世界であり、言うなれば妄想だ。
ガラス玉を投げる度、嶋田は「もしあの時〇〇してたら」と言い、やり直し可能な世界まで引き戻される。
引き戻された先のなずな含む友人たちは、時と場合に準えて自然な形で新たな出来事が巻き起こる。救出が失敗する度ガラス玉を投げてやり直し、なずなの望む形にしようとするが、
なずなが目指してるのは親からの離反。駆け落ち目的だった。
再婚を繰り返す母親を「ビッチ」と言い放ち、しかし自分も同じような「ビッチ」だと言う。
更になずなはそこで嶋田に対して好きと言う。
けれどもよーく見てみると、冒頭の現実世界とは明らかに違う背景があり、
分かりやすいのが風力発電の羽根の回りかた。現実では時計回りだが、嶋田がやり直したくてガラス玉を投げた先の「if」の世界では反時計回り。
つまりやり直して枝分かれした現実世界ではなく、やり直して枝分かれした空想世界であり、現実ではない。
どうやったってなずなは母親に引っ張られて引っ越すのだ。
なので、嶋田がやり直した世界はあくまで“嶋田が望んだ世界”であり、その世界における、なずなの台詞全て、嶋田から見た彼女でしかなく、彼女自身の本心・本音・肉声ではない。
なずなの「好き」という言葉も嶋田の妄想に過ぎない。なずなはあくまで駆け落ち理由の相手が欲しいだけで彼女に恋愛感情はまだない。
打ち上げ花火がどこから見ても同じという事実と、それが逆に平たく見えるという異常さで虚像な世界であるということを示し、
そして打ち上げ花火が痛々しくも本来よりも美しく派手に見えるという描写で、嶋田の甘い妄想であることを彷彿とさせる。
終盤になると嶋田の妄想である「if」の世界がまさしく思春期の男の子の妄想でいっぱいになる。
東京に行って、有名スポットでなずなとイチャイチャという断片的光景を目にし、まるで安いメロドラマのようなキスをなずなと交わす。
勿論「if」の世界の出来事なので嶋田の妄想でしかない。
結局この映画は序盤からラストシーンまでずーーーーっと嶋田の願望であり、妄想であり、
起こった出来事は全てチャラとなり、なずなは転校してしまう。
ただ、この映画のいいところは、
ラストシーンの教室での出席をとるところで、なずなの席は勿論空き、
しかし嶋田の返事はない。
ガラス玉が無くなり、完全にもとの世界に戻ったわけだが、やり直しの記憶がある嶋田は恐らく転校していくなずなを追ったか、
はたまたいじけてどっかほっつき歩いているか。
どちらにせよ、なずな自身は嶋田に対しては駆け落ち理由でしかなく、好きとか愛してるとかはない。
ラストシーン、仮になずなと共に本当に駆け落ちしたのなら、この映画はまさしくアイドルに恋する男の妄想を爆発させた映画だと言える。
つまりアイドルアニメ映画。男のフェチな部分をふんだんに入れたアイドルに「好き」と言われて「助けて」と言われて助けだし、二人駆け落ちという、とんでもない妄想映画。
それを表すかのように、劇中は下ネタ盛りだくさん。
フェミニズム騒がしいこのご時世に、
「D?E?Fぅ~?」
「パンチラ写真、ほんとにとってくれるの?」
「三浦先生の胸、やけにしぼんでますね」
とか言っちゃうほど、男にしか受けない要素盛りだくさん。女性がこの映画見て不快感を覚えるのは当たり前。
ただ、こんだけぶっ飛んだ妄想映画にした点は評価したい。
今時ここまであからさまな男の願望映画も珍しい。脚本がモテキの人だというのも至極納得。
いかんせんアニメとしての出来とか、CG浮きまくりとか、リアリティの無い学生描写とか糞みたいな部分がたくさんあって褒められたものではない。
・・・まぁそもそも批判されるべき憐れな男たちに捧げる話ではあるから、もう百も承知でこれを作ったのかもしれないけど。
あと、原作ではなずなの体に付くのが蟻らしいが、
今回はトンボだった。
妄想映画としてぶっ飛んだ内容にするんなら、蟻のままにしとくべきだった。
蟻が身体を這うからエロいのに・・・ヒアリの件があるから・・・?