「モノクロ」静かなる叫び 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
モノクロ
1989年に起きたモントリオール理工科大学虐殺事件を元にした映画。
なぜモノクロ映画なのか?は観るとわかる。カラーでは無理だ。生々しくて残虐すぎて。血が赤ではなく黒の世界だからこそギリギリ上映できる。
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実際の虐殺事件を題材にした映画にガス・ヴァン・サント監督『エレファント』があるが、それと違うのは、本作『静かなる叫び』が、事件が何故起きたのか?よりも、生き残った人々のその後に重点が置かれている点だと思う。
事件は吐気を催すほどショッキングだが、映画の中で私が一番呆然としたのは、事件を目撃した青年フランソワがその後とった行動。その心情が詳しく説明されることはないが、理不尽な破壊を止める事の出来なかった無力感、彼の負った心の傷に打ちのめされる。彼はそうするしかなかったのだという悲しさに打ちのめされる。
加害者は、銃で大勢の女性達の命を奪っただけではなく、残された者の人間性や希望までも深く破壊してしまったようにも思える。
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もう一つ描かれる行動。事件を生き延びた女性バレリーが書いた手紙、その後の行動。出産。
理不尽な悪意は目を背けたくとも存在し、それを正し消し去るにはあまりにも人間は無力だが。そんな世の中に新しい命を生み出すなど恐ろしいことであるが、それでも尚、命を紡ぐ。希望を繋ぐ。
加害者が壊したものをもう一度取り戻すには、誰かを愛し信じ希望を繋ないでいくしかない。
圧倒的な破壊に立ち向かうには、圧倒的な希望しかない。決意の映画だと思った。
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追記:監督・脚本ドゥニ・ヴィルヌーヴ。
フランス語の脚本。ラストの手紙。命を繋ぐということは赦しであり希望であり、無情な世界への闘いでもある…。
ヴィルヌーヴ監督の『灼熱の魂』と形態・テーマともに非常に近い作品であったなと思う。
このあと『メッセージ』『ブレードランナー 2049』と話題作が続くヴィルヌーヴ監督、非常に公開が待ち遠しい。
追記2:ヴィルヌーヴ監督作はどれもカメラが素晴らしい。フランソワの心情を映したような空撮シーン。忘れられない。