「予想ほど重苦しくない」ムーンライト こまめぞうさんの映画レビュー(感想・評価)
予想ほど重苦しくない
シティオブゴッドなどのように
貧困から抜け出せずアンタッチャブルに落ちていく
黒人少年の話、かと思っていた。
外れてはいないけれどそこが主題ではなかった。
あくまで愛に飢えながらも愛に不器用になってしまう人々の映画だった。
母親は息子に愛してると言いながら
薬でラリってると罵詈雑言を浴びせる。
唯一親切にしてくれる近所の大好きなおじさんは
少年に負い目の大きい生業である。
はたして自分は存在していいのだろうか?
さらに貧困社会においてナメられるのは=死に
近い意味合いを持つのであろうなかで、
少年はさらにマイノリティであると思春期に自覚する。
唯一心を許した相手も弱さ故に少年を傷つける。
そう、この映画に出てくるのは弱い人間たちなのだ。
強い人間であればどんな環境においても
確固とした姿を見せて少年を導けただろう。
しかし彼らは弱い。
流されてしまう。
そして「俺(あるいは私)のようにはなるな」と忠告する。
それが弱い人間の優しさなのだ。
己を棚に上げてこの子はそうならないでくれるはずだと
勝手に期待やプレッシャーを与える。
久しぶりに連絡してきた幼馴染みでもそうだ。
状況的には幸せであるはずなのに満たされないから連絡した。
でも少年がやってくると「なぜ来た?」
つまり寂しいけども少年には俺と違って
成功していてほしい、と
やはり勝手にそうでいてほしいイメージを抱いている。
少年は常にその期待に応えられず、
物悲しい瞳で俯く。
彼自身も弱い存在だからだ。
なんと切なく悲しく美しい映画なんだろうか。
それにしても、世代が違っても同じ目をした役者をよく
見つけたものだ。