「タレル・アルヴィン・マクレイニーの自叙伝だったんだ?!」ムーンライト Socialjusticeさんの映画レビュー(感想・評価)
タレル・アルヴィン・マクレイニーの自叙伝だったんだ?!
フロリダの、リバティー・シティーの黒人が多い共同体の中で、シャーロンが大人に成長するまでの過渡期を表している。 そこで、最も心に響くのは麻薬ディーラーのフアン夫妻の存在だ。シャーロンはこのふたりに少しずつ心を開いていく。本当に少しずつ。それも、三部作の第二、シャーロンの章で彼は質問ができるようになる。シャーロンは元々内気なのか、家庭環境や学校でいじめられたりホモ扱いされることにより、何も言わなくなったのかわからない。多分両方だろう。家庭環境は母親、ポーラ(初めは看護師のようだ)の都合により、自分の家が娼館になっているようで、シャーロンは家にもいられない。母親は麻薬に溺れている。その母親も、血の繋がりが唯一の武器で、それを盾に、息子、シャーロンをとどめておきたいように思える。学校では、Faggotだと言われ肉体的にいじめに遭うが、家庭では精神的にいじめ抜かれている。これだけのDVを受けて、人間が機能するとは思えない!?
母親は麻薬ディーラーのフアン夫妻と付き合うことを嫌う。それは、面倒が見られなくても『自分の血をわけた子』という発想で、息子を自分の物として考えているから、シャーロンの感情なんてどうでもいい。人格否定している。 これは愛とは言えないと私は思う。ご都合主義である。
学校では、ケヴィンを除いて誰一人とも口を聞かない。周りの生徒はいつ自分が標的になるかしれないと思い、シャーロンに対するいじめを放任しているようだ。高校時代はケヴィンまでがいじめの大将の言うことを聞いている。ケヴィンに殴られても何度も起き上がるシャーロンを『起き上がるな!』と言って叩きのめす。ケヴィンは自分がいじめの標的になるのを恐れてるから、シャーロンのために立ち上がれない。シャーロンは殴られて倒れていればいいものを何度も立ち上がって、まるでケヴィンへ忠誠を誓うようだ。
シャーロンはファンにはやっと打ち解けてきて(それでも、多くを語らないから、心を読むことが難しかった)、泳ぎを教えてもらったり、「入口に背を向けて座るな、全部見通せるところに座れ」と銃、麻薬社会に住む知恵を教わる。ファンははっきりしないが、シャーロンと同じような環境に育ったようで、麻薬ディーラーであっても心の中は父親になってあげているようだ。「Faggotってなに? 麻薬を売っているの」という質問にもファンは嘘を言わなく、考えながらゆっくり正直に答える。いいねえ。シャーロンの母親も間接的には自分の売った麻薬を使っているのに、母親に説教しにいく。そして、ファンは『ムーンライトの中で、黒い少年はブルーに見える』という話をシャーロンに伝える。私個人の解釈は「シャーロンの考えるステレオ・タイプの黒人だけでなく、それ以外の黒人もいる」という意味かな? 自分は自分でいいよという意味だと思った。しかし、タレル・アルヴィン・マクレイニーの "In Moonlight Black Boys Look Blue" からきているフレーズなんだが、修辞的で理解しにくいフレーズだね。実はわからない。 麻薬ディーラーのフアン夫妻のおかげで、シャーロンは生き方を学んだし、家庭になかった暖かさも味わえたと思うが、育っている時から授かっていない愛情をどう受け止めていってるのかシャーロンの気持ちが理解しにくかった。 でも、ベットメーキングを教えてもらった時、『いつでもきていいよ』と言われた時など、どこか身を寄せられるところが存在したのだ。
三部作の第三、そして、車のフロントには王様の冠、歯には金のブレイスを入れ、肉体を鍛え、金のネックレス、ブレイスレットと金があり、シャーロンはパワーもあるところを見せようとしている。内面の弱さを外見でカバーして強く見せようとしている。心の中はトラウマで母親が夢にまで出る。でも、アトランタに引っ越ししたシャーロンがわざわざマイアミまで、母親に会いに来て母親を許すところには、驚いた。許せるのには驚いた。シャーロンは許すことにより、トラウマがなくなったに違いないと思う。許すことはパワフルだからね。
ケヴィンは電話で謝るが、このシーンでシャーロンがケヴィンのことをずうっと思っていたことがよくわかる。ケヴィンとの再会のシーンは圧巻で、ケヴィンの饒舌さ、それに比べて、シャーロンの寡黙さ。子供の頃の二人に戻ったようだ。またケヴィンのアパートも高校生の頃、二人が心を合わせた海辺が見えるように映し出されている。ケヴィンは自分の過去の行為を、自分の思うように行動できず、価値がなかったと。 I was not never really myself(?)と。でも、シャーロンは今はどうなのと聞く。切ない気持ち。だって、ケヴィンは新しい世界を家族と共に、歩んでいるんだよ。子供もいるし.......でも、シャーロンが返す言葉は、You are the only man that's ever touch me!! 参った!
You are the only one!!と。一途に思う気持ちに泣けたよ。終わり方がいいねえ。ただ、わかるのはシャーロンの答えにケヴィンが微笑んだだけ。
私は勝手にバリー・ジェンキンスの自叙伝だと思った。出身地も同じで、母親がドラッグ漬けだったと読んだことがあったから。でも、これはタレルの個人的な経験だとわかった。