「シリーズのみならず、監督の集大成とも言える傑作」アウトレイジ 最終章 Lenelyさんの映画レビュー(感想・評価)
シリーズのみならず、監督の集大成とも言える傑作
公開当日、ユナイテッドシネマ札幌より
朝一で一回、その後夕方再鑑賞の2回鑑賞致しました。
1回目は客観的に、2回目はまた別な見方で鑑賞した際の個人的見解です。
客観視で観る人が多く、この作品の良さが伝わりにくいのが残念です…。
前作のラストでは続編を想定させない終わり方であり、完結と名乗りつつも最終章が完成してしまった訳ですが、
今作はシリーズの続編であり、監督自身の集大成を描いた作品に仕上がっているイメージでした。
作品で例えるなら『ソナチネ』
物語が繰り広げられるだけでなく、生死のジレンマを描いており、尚且つ3作目にして見る者の感性が試される作品になっている。
冒頭の海のシーンでは大友がとても幸せそうに子分と釣りをしている。
しかしそれも束の間、日本ヤクザとまた揉めだし徐々に導火線に火がついていく。
全体的な内容が展開していく中、大友にまつわる話は抗争だけではなく”報復と死”であり、やらなくてはならないことを全てやり遂げ、そのケジメとして死の場所を選び命を絶つ。
ヤクザ社会に生きることに嫌気を見せる大友。
これは今作からではなく、ビヨンドから見せている。
北野武監督作品の『ソナチネ』を連想させる、まさに原点復帰作とも言えるだろう。
抗争することを決意した時点で大友は死に向かうことになる。
物語が進むに連れて、大友の死が徐々に迫っていく。
自分の死に際がわかっている為、何にも屈せず敵をバタバタ殺しまくる。
客観視すれば、ドンパチやって想定するオチで本当に終わりという見解になり、生き残った花菱の西野(西田敏行)や中田(塩見三省)他は殺らないのか?と首を傾げてる人が劇場で多かった。
しかし、シリーズを通して思い出しながら鑑賞すると、こうも捉えられる。
大友は昔カタギのヤクザであり、仁義などを大事にして来た男である。
つまりは大友はフィクサーの張会長の為だけでなく、若い衆や前作で死んだ木村の仇の為に戦争を仕掛ける。
最期はやってきたことのケジメはいつでもつける覚悟を持っているわけである。
生き残った奴らは、大友が直接手を下す意味がないのだ。
バイオレンスのエンタメ性がシリーズの中で低いという意見もありますが、
今作の抗争相手はほぼトップの権力者であり、最終的な状況にならない限りは暴力は発動されない演出なのではないだろうか。
そしてシリーズを通してわかったのが、
子分に対して理不尽に怒号、殴ったり蹴ったりする人は、必ず最期酷い殺され方をされるというお決まりだ。
花田(ピエール瀧)も冒頭で子分を殴る蹴るしている。
今回劇場では女性客やカップルも多かった。
ビートたけしが言っていた、『ヤクザもサラリーマンも同じだ』
権力闘争も描かれており、ヤクザ社会で表現されているが現実的な現代社会にもある権力闘争。その現代社会をかなりうまく反映している為、人を選ばず楽しめるのも今作の魅力。
花菱新会長の野村(大杉漣)のように、ヤクザ会でのしあがることなく、トップにいる。
もちろん昔ながらいる者達からしたら素人がいきなりトップになりでかい口を出されて面白くない。
ここがかなり現代社会にもあり得る光景である。
シリーズでは欠かせない怒号について
みなさん、病気や歳のせいか昔ほどの怒号はない。
声量も薄れてしまったし、全2作のようなまるで銃撃戦のような怒号戦はなかったです。
ただ、言葉の選び方や間合いがしっかりされており非常にこちらも見応えあり。
塩見三省さんも、リハビリ中にも関わらず素晴らしい演技。
さすが役者です。
そして張会長役を演じた監督のの友人でもある金田時男さんも素人とは思えないほどの存在感。
ほとんど無口ではあるものの存在だけでもオーラが違う。
韓国語でほとんど会話するものの、日本ヤクザはそれを舐め、悪口に対し突然日本語でキレたりと…。
今回一番怖かった。
次は誰が死ぬのか?というドキドキ感。
こっから先どうなる?という展開も淡々かつ静けさの中にもしっかりとした緊張感が漂っており、そして実銃のサウンドを使用している為銃撃戦の大迫力と臨場感は興奮もの。
棒立ちで銃を撃つのも監督のこだわりで、これがかえって下手なアクション映画よりも渋くカッコいいのだ。
一度見るだけでなく、数回観ると様々な見方ができる為非常に面白い作品でした。
長くなりましたが、客観的にこの作品を観るのではなく、過去作で起こってきたことや、キャラクター像を頭に入れながらみると、様々な辻褄合わせができるのち、感性によっては様々な見解、想像が生まれる最終章。
もちろん賛否はあると思うが、全シリーズを通して全て統一した面白さがある。
ただのヤクザ映画ではないこと、そしてシリーズ作でもここまで質を落とさず制作できることを証明した北野武作品の中でも感無量最高傑作だ!