「実力派の名演も響かず」20センチュリー・ウーマン うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
実力派の名演も響かず
食えない一本になった。前評判が高かったのでそこそこ期待して見たが、正直、何が言いたいのかよくわからない映画になった。
・家族の結束・母親への郷愁・女性賛歌・少年の成長・性の目覚め・70年代・印象に強く残るセリフ・沁み込むような語り口・独特の映像
などが、この映画の魅力なのだろうと思う。やたらと出演している女優の感性を称賛するようなコメントが多く、「映画が好き」な人が持ち上げているように映る。私も、それなりにたくさんの映画を見てきたし、文芸的、私的な映像作品には強烈に魅かれたものも少なくない。がしかし、この映画は食えない。食わず嫌いのまま終わってよかった作品だった。つい、グレタ見たさに見てしまったし、アネット・ベニングの表情を見ているだけでも何某かの癒しにはなると思う。ところで、さっぱり何が言いたいのかわからない。
セックスについての女の本音を年の近いお姉さん(他人)にレクチャーされ、添い寝のパートナーになるという異常な経験を、さも当たり前の通過儀礼のように描き出す。
アート系の仕事を志す適齢期の女性で、妊娠にリスクを抱え、結婚とは距離を置く自立を余儀なくされ、行きずり以外の男性関係は乏しそうな、とても家庭的とは言えないお姉さん(他人)は、15歳をクラブに連れ出し、酒も勧める。
父親のいない境遇の男の子の行く末に不安を感じ、自分の教育方針に自信が持てない母親は、そんなお姉さん連中に、息子の教育係になることを頼み込む。
そんな不思議な「家族」が、少年の成長を通して語られていくのだが、この少年が、素直過ぎてなんの起伏もない。ドキドキする様子もなく、悲しみも、挫折も感じさせない。どうやら、監督がこの少年をアバターに自分の人生経験をダブらせて描いているようにも見えるのだが、女性にこれだけ近づきながら、無視されているに等しい扱いは、とても愛されているとは言えないだろう。飼い犬に裸を見られても平気なのと一緒だ。
表面だけ、「教えることは全部教えたからね」「その気になってもあなたとは寝ない」「息子が何を考えているかわからない」それぞれのスタンスを宣言し、それぞれの女性に特有の苦しみ、悩み、悲しみを、全部詰め込んで、この20世紀を生きた女性は私の母だった。みたいなまとめ方は凄く乱暴に思える。
少なくとも、この男の子、一つも愛されてないことだけは確かだ。だって、放任され、道を外れても叱られず、恋する女性からは恋愛感情を否定され、大人の女性には夜遊びに連れ出され、よほどしっかりと自分をもっていないと、このままドラッグや犯罪に巻き込まれていくのは必然だろう。
そんな十代の一瞬のきらめきを、ある角度からとらえて、一見、美しく切り取られた映像に、魅了された人に、私は問いたい。大人の責任とはなにかを。
2018.6.10