劇場公開日 2017年3月18日

  • 予告編を見る

「効率性向上だけが社会の進歩ですか?」わたしは、ダニエル・ブレイク KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0効率性向上だけが社会の進歩ですか?

2020年9月6日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:TV地上波

TV放送を録画して今年2度目の鑑賞。

前回心打たれたシーンの連続が
全く同じように私を感動に導く。
主に2家族の厳しい現状を淡々と描く
映画だが、何故か画面から目が離せない。
特に、母親が空腹から配給を待ちきれず
食料を貪り食ってしまうシーンや
子供達に食料を与えるために身を売るシーン
は涙なくしては正視できない。

栄光の大英帝国時代からは隔絶の感のある
現代のイギリスだが、
「リトル・ダンサー」など自らの格差社会の
厳しい現状を赤裸々に描く映画を制作し
提供出来るイギリスの文化と社会性に敬意
を表したい。

真面目に納税義務を果たしてきた主人公が、
その人生の晩年に、
多少のデフォルメはあったとしても、
複雑に張り巡らされた行政システムに翻弄
され命を絶たれるラストシーンが辛いが、
彼がその周囲に蒔いた希望の種
が感じられるからこそ、
何故か心地良く鑑賞を終えられる素晴らしい
作品だ。

それにしても、“効率向上=社会の進歩”
なのだろうか。
この映画を評価しない方の中には、
ITなど時代の技術への学びや対応に
努力しない人は社会に切り捨てられても
やむを得ないのでは、との論調がある。
しかし、
残念ながら人間は急には変われない、
特に高齢者は対応が難しい。
瞬時に変われるのは機械やITなどの
血の通わない世界だ。

効率だけを優先するのだったら
人間そのものを機械やロボットに
置き換えた方が良いわけで、
その結果がターミネーターの世界だろう。
そんな考え方で、
果たして人類に未来はあるのだろうか。

我々は改めて
“効率性は犠牲した上での人間社会の進歩”
というものを考えるべきでは?

このイギリスの格差社会の現実、
それは明日の日本を、
そして未来の人類を映す鏡なのかも知れない
と思った。

KENZO一級建築士事務所