「見落としてはいけないこと」わたしは、ダニエル・ブレイク 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
見落としてはいけないこと
自国の社会保障制度のこともきちんと理解できていない私が、イギリスの制度の実態、ましてや運用に関しての属人的な部分(つまり、対応する職員の融通性の欠如)について、映画からの断片的な情報で批判的に語ることはできません。
確かなのは、たぶん次の3つ。
・たとえ良心的な専門家が真面目に考えて設計された制度であっても、運悪く支援対象に当てはまらない人が出てくる可能性があるということ。
・一旦制度上のルールで弾かれた人が救われるためには相応の法的措置や労力が必要なこと。
・人が社会の中で尊厳を保つという点において、ささやかであっても実直に仕事をし、定められた税金を払うことがとても大事であるということ。
どう見ても実直とは言えない〝濡れ手に粟〟のような手段で金銭的に成功した人は、一定の賞賛やプライドは持ち得ても、ダニエルのように堂々と、自分にも社会に対しても臆することなく名乗ることはできないのではないか。
帰属する社会の一員として果たすべき義務を全うした一市民の尊厳。
その市民が何らかの事情を抱えて苦しんでいる時に守れない社会。それは、行政の効率化やコストカットを優先した民営化を優先するうちに、いつの間にか制度以上に行政に携わる人間の思考そのものが硬直化してしまった社会になってしまったということなのだと思います。
日本では、生活保護を受けている人がパチンコに行った、というだけで批判を浴びます。
働きもしないで税金からの保護を受けるのはけしからん❗️と考える人にとっては、映画の中で、ダニエルが履歴書を配らなければならなかったイギリスの制度はむしろ正しく見えるのではないでしょうか。
〝医療専門家〟と呼ばれていた人は業務委託を受けていたと言ってたはずです。ということは民間会社の人なのだと思われます。ダニエルの生活よりも、支給額を減らすことが目的のヒアリングになるのは構造としては仕方がなかったともいえます。
コロナがもたらした大ピンチを社会構造の変革のためのチャンスに変えることに希望を見出したいと思います。
生活保護受給者の大半は健康を害して就労できない人達です。
ケースワーカーも受給者の就労を薦めないのは「就労できない」からです。
そもそも生活保護には、医療券という無償医療給付があり、何をおいても治療しなければならないから。
また受給者のかかりつけ医と医療券を発行するケースワーカーは、毎月「ケース会議」で受給者の健康をチェックしています。
大変な時期、心労が重なってきたこととお察しします。
私事ですが通勤路に2つ、手作りの看板が出来てたんです。無関係なそのどちらも、コロナに負けるなって書いてあって。単純ですけど、世の中捨てたもんじゃないなって。
ダニエルみたいな真っ当さを、大事にしたいですよね。