「狂気手前の英雄の話だけど「普通の生活」について考えさせられる」ハクソー・リッジ fall0さんの映画レビュー(感想・評価)
狂気手前の英雄の話だけど「普通の生活」について考えさせられる
宗教と戦争という、私が縁の遠いものと思ってる要素が大部分を占めてるのに、自分が身を置かれてる社会に思いを馳せるような構造になってる。
戦争シーンに凄く臨場感があって、スクリーン越しにも凄惨さが伝わった。落ちてくる土砂やすぐ足元に重なる臓物のはみ出た死体、怒号と爆音が迫ってくるようだった。アクション映画大好きだしグロシーンもわりと平気だけど、それは楽しく見れるように演出されてるからなんだよなと思った。暴力をエンタメ化できるのなら、逆に楽しい演出を一切せず苦しいものとして提示することももちろん可能で、というかそれが本来の暴力なんだよな。見てるだけで辛くて、早く終われと思うほどだった。凄い撮影技術。
戦場の惨さが秀逸に表現されてるからこそ、主人公の行動が並でないのが浮き彫りになる。頭がおかしくなりそうな緊張感の中、身の危険にさらされて人を助け続けるって、偉業ではあるけどとても理解できない。
前半部分では「みんなはやってるけど僕には出来ません」って、理屈ではわかるんだけど何だかモヤっとするなぁと思ったのね。色々な事情や価値観があるから、皆が皆横並びなんて現実的じゃないし、それぞれが出来る事、やりたい事をやればいい。でも、皆がやりたくないことは誰がやるのか。戦争は個人の事情や言い分が通らない状況の最たるものだ。指示系統を迅速で明確なものにするために上下間系は厳密だし、「勝手」は許されない。「イレギュラー」な人を守る為の制度はあるけど、実質蔑ろにされてる。そういう状況で戦闘を拒否するって、そりゃまぁ迫害を試みる人間も出るよなぁと思う。だからこそ戦争は悪なんだけど。
でも後半を見ると、ここまで危険な状況に身を晒して初めて「みんなと同じにできない人」がようやく認められるって、怖いなと思えてくる。デズモンドは英雄だし、素晴らしい勇気と気力の持ち主なんだけど、平和で多様な選択肢がある環境なら、もっと無理のない形でも自分に合った方法で活躍できるだろうなと思う。(デズモンドがそれを望んでいたかは別として。)デズモンドの父親が、「憲法を守る為に軍人たちは戦った」って言ってたけど、人間の権利って古くは勝ち取り守ることで確保されてきたものなんだなと思うし、非常時には蔑ろにされがちなんだよなぁと思った。
デズモンドは、厚い信仰心に基づいて常人離れした信念を貫いてて、だからこそ英雄だ。決して共感はできないというか「私にはそこまで出来ない…」って感じなんだけど、せめて他者と違うけど何か為になることを成し遂げようとしてる人を見たときはなるべく邪魔しないようにしようと思った。
アンドリューガーフィールドの演技、ちょっと狂気じみた笑顔とか、役柄を表現できていて良かった。