「戦争の良し悪しではなく、人としての正しさを問いかける。」ハクソー・リッジ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争の良し悪しではなく、人としての正しさを問いかける。
何処まで行っても熱心なクリスチャンであることに一切ブレがないメル・ギブソンらしく、この映画は戦争映画というよりもどちらかと言えば宗教映画・クリスチャン映画。メル・ギブソンにかかれば、戦争さえもクリスチャン映画になってしまう、と意地悪なことを思いつつも、けれども、「パッション」の時のように、敬虔なクリスチャンだけが理解できればいいというような向きではなく、クリスチャンの教えを改めて反芻して全人類にも問いかけ直しているというような感じで、戦争とキリスト教を通じて、人の正しい行い、より善い人の在り方を考えさせる、そんな映画だったように思う。
だから、この映画は戦争の勝ち負けなどは問題にしていないし、戦争そのものに対しても、軽はずみに好戦的とも反戦的とも言わない中立性を感じる。何しろ、ハクソー・リッジでの接近戦は、人を選ばずに一瞬にして次々に命を奪っていく戦争だ。その人の過去も家族も人柄も背景もすべてお構いなしに次々に殺されてしまう。もちろん敵も味方も関係なく、否応のない死が襲い掛かってくるような状況だ。思わずその無情さに心痛の思いがし、簡単に反戦の意をぶり返してしまいそうになるが、この映画の本当に信念は、ハクソー・リッジから撤退した後の主人公デズモンドの行動にこそある。「もう一人」「もう一人」と念じながら、敵も味方も関係なく救える命を命を懸けて救おうとする姿。戦争というものに於いて安易に「英雄」という言葉を使うのには大変慎重になるが、彼のとった行動は極めて英雄的であったと思うし、救われた人々にとって彼が英雄だったのは間違いないだろうと思う。口先だけの平和主義ではなく、それを行動に移せる強さであったり、その信念の誠実さを感じては、言い訳を作っては傍観しているだけの自分を顧みてしまった。アンドリュー・ガーフィールドの繊細で純真な佇まいと演技がまた素晴らしく、真っ黒になりながら人を救うガーフィールドの健気さと勇敢さに、なんだか目頭が熱くなりそうだった。これは実在の人物の物語だという。彼の生きざまは、今の時代に問いかけ直す意義のあるものだと思う。
メル・ギブソンの人となりについては、語られるいくつかの逸話や舌禍を思い出して何とも言いにくいが、やっぱり映画監督としての才能は認めざるを得ない。ナイーブな青年の心理描写から後半の残虐なまでの戦地の描写まで、とんでもない力量を感じて感嘆するばかり。その上で、とっつきにくそうな題材に一つまみの娯楽性も落とし込んでいるように思え、戦争映画に不慣れな人でも見られるのではないかと思う。まぁ、さすがに観るのが辛くなるようなシーンも少なくない(特に前線のシーン)ので、体調を整えてから鑑賞することを薦めたいとは思うが。
本当は☆5でも良かったが、やっぱりメル・ギブソンの宗教臭の強さが気になって☆4.5で。